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中村芳子「お金のことで苦労せず、人生を楽しむためのお金の基本」

50代シングル、仕事以外のコミュニティ無所属は人生最大のリスク…4つの打開策

文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー
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「Getty Images」より

 50代シングルの「明るい将来」を実現するためのポイントは、次の5つだ。

(1)住まいを確保する

(2)長く働く

(3)投資をする

(4)コミュニティ(地元仲間)をつくる

(5)専門家の助けを借りる

(1)の住まいを確保するは、「持ち家組」がやること「賃貸組」がやっておくことにまとめた。(2)の長く働くは、こちら。(3)投資は、こちら。復習してほしい。今日は、(4)のコミュニティを考える。

あなたは、どんなコミュニティに入ってる?

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『50代のいま、やっておくべきお金のこと 新版』(中村芳子/ダイヤモンド社)

 シングルのあなた。仕事関係以外、どんなコミュニティに入ってますか? 会社の外に友だちいますか? たとえばコロナに感染したときに毎朝夕電話してくれ、食事や必要なものを自宅の玄関前まで届けてくれる友だち。気持ちがまいってしまったとき、経済的に行き詰まったとき、本音で相談できる友だち。

 アメリカに数年住んだことがある。最初は知り合いは家族だけ。当初2年は無職だったので、仕事で人と知り合えない。それでも友だちができた。コミュニティがあったおかげだ。地元の教会に毎週末、通った。その教会を見つけるのに半年以上かかった。教会によって、集まっている人たちや雰囲気がちがうのだ。私が落ち着いたのは、ゴスペルの賛美がすばらしいブラック・チャーチ。アフリカン・アメリカンの教会。私たち家族だけが非黒人だったが、差別なく迎え入れてくれた。

 料理を持ち寄って昼食会、地域の貧しい人に食料を分けるフードパントリー、資金集めと健康づくりを兼ねた5キロマラソン、公園でのバーベキュー、子どもたちのお泊まり会など、いろいろなイベントがあった。中流より貧しい人が多かった。シングルマザーがたくさんいた。性別、年齢、ライフスタイルを超えて、助け合っていたのが印象的だ。子どもを預かりあう。高齢者の家を修理する。家族を埋葬する費用がない家庭のために寄付を募る。葬式はもちろん教会で。困ったとき、悩んだときに相談に乗ってくれ、アドバイスをくれた。

 小さな日本人会もあった。お節料理を持ち寄る新年会は楽しかった。子どもの教育はどの家庭も共通の悩みだった。家庭に招きあって家族ぐるみで付き合った。趣味の太極拳で、中国人コミュニティにも入れてもらった。海の向こうでは日本と中国がいがみ合っていたけど、みんな親切だった。出し物をして中国の新年を祝い、INDY500ではダウンタウンで太極拳を披露した。アジア人がアメリカで暮らすための知恵を教えてくれた。

 散歩の途中、雨宿りさせてもらって、近所のバングラデシュ人ファミリーと仲良くなった。感謝祭や誕生日を一緒に祝った。

 日本に帰って気がついた。あれ、コミュニティがない、地元の仲間の集まりがない。

家族の枠を超えて付き合える、助け合える人間関係をつくろう

 40~50代シングルの相談を受けることが多い。もちろん現役。バリバリ働く仕事中心の生活。健康維持のためにジムに通う人もいる。山登りや旅行とかの趣味を楽しむ人もいる。でも、いまの人間関係はほとんど仕事だけ。学生時代の友だちと、たまに連絡をとったりするけど……。

 40代ではたいてい親が健在だ。しかしやがて両親とも他界する。それを思い描ける40代は少ない。仲の良いきょうだいがいればいいが、きょうだいのないシングル、いても疎遠なシングルは、親が亡くなったらどうなるだろう。一人になる。

「在宅勤務ができるようになったので、76歳の母親が一人で暮らす新潟に引っ越そうと考えてます」という50代女性の資金相談を受けた。「お母さんが亡くなっても、新潟に住み続けますか?」と尋ねたら絶句。「その先のことは考えたことがなかった」と。

 昔は子どもが多く、親戚は近くに住んでいたから、家族・親戚がコミュニティだった。やっかいなこともあったが、誰かが病気したりお金に困ることがあれば、そのなかで助け合った。これがどんどんなくなっている。

 シングルでもいとこ、きょうだい、甥姪がいれば、80歳、90歳、100歳になった時、力になってくれるかもしれない。でも、きょうだいも、いとこもいないシングルはたくさんいる。子どもは海外住まいで、あてにならない家もある。

 家族という括りにとらわれていたら、「弱者」になったとき生きていくのが難しい。年をとったり、病気や怪我をしたり、障害を持ったり、経済的に失敗したとき。国や公共機関がある程度助けてくれるけど、関わってくれるのが、ケアワーカーと職員だけだったら悲しい。ぜいたくな老人ホームに入っても、誰も訪ねてきてくれなかったら。病院の豪華な個室に入院しても、誰も見舞いに来てくれなかったら。

 日本、特に都市は、コミュニティがほとんどない。あっても絆が薄い。だから、自分でコミュニティをつくる。絆を強くする。国や地方自治体任せにはできない。75歳過ぎてあわてないため、地元に友だちをつくるために、今コミュニティに入ろう、コミュニティをつくろう。

どうやって? コミュニティに入る4つのアイディア

(1)同じ宗教・哲学の人たちと

 日本で宗教というと、うさんくさく思われがちだが、世界を見回すと、コミュニティの中心は宗教。哲学と言い換えてもいい。「自分は何のために存在して何のために生きているか」という価値観の根本、アイデンティティに関わることだ。同じ価値観を共有できたら、深い部分で打ちとけることができる。

 私はアメリカからの帰国後は、東京の教会に通っている。ひとつの教会の会員だが、教会や国を超えた働きにも参加している。おかげで、日本中、世界中に友人ができた。SNSが発達したいま、世界の人たちとスマホひとつでつながれる楽しさ、便利さを味わっている。

 イスラム教やユダヤ教の友人もいる。自分が宗教を持っていると、ほかの宗教を尊重でき、かえって理解し合えると感じている。宗教心がある人は、行動にうつしてみてはどうだろう。

(2)趣味を深める

 深い趣味は、人間関係をつくれる。毎月、毎年釣りに行く、山に行く。船や山小屋やテントで寝食を共にする。何年も続けていれば、家族以上の絆ができるだろう。俳句や短歌の同人活動で、かけがえのないつながりを得た人たちもいる。

 私のヨット仲間は退職したとき、出資者を募って港の近くにシェアハウス形式でセカンドハウスを建てた。1人が住んで、3人は週末や休暇に別荘のようにその家を利用している。年代も40代から70代までと幅広い。ときどき仲間に入れてもらうが、不思議で面白い空間だ。 

(3)地元の活動に参加する

 2020~21年は、コロナで活動が制限されてしまったが、動けるようになったら、住まいの近くの活動に積極的に参加したい。シェア畑、読書会、マラソン大会、犬の飼い主の集まり、こども食堂の手伝い、無料塾の講師や運営の手伝い、消防団。地元のオーケストラで演奏していたら、年代も仕事も違ういろいろな人たちと長く付き合える。自分が興味のあるところから、無理せずに入っていくといい。歩ける距離に友だちができると、うれしいし心強い。そこから、さらに広がっていく。

(4)SNSも使い方次第

 世界中の人と知り合えるSNSだが、近くの人とも友だちになれるはず。自分が興味のあること、大切に感じることを情報発信してみよう。「自慢情報」にならないように、そして個人情報と安全には充分注意して。趣味や価値観を共有できて、近くに住んでいる人が見つかったら、1対1ではなく、複数人でお茶や食事をしてみてはどうだろう。用心深く、でも、ちょっと積極的に。自分から情報を発信してみるのがポイントかもしれない。

人生を分散投資する 投資するのはお金、時間、エネルギー、愛情

分散投資が大切」とは資産運用の基本だ。卵(お金)をひとつのバスケット(投資先)に入れない。バスケットを落としたら(相場が崩れたら)、全部割れてしまう(大損する)から。人生も同じ。会社で仕事ばかり、同年代の人とばかり時間をすごすのは、ひとつのバスケットに人生を全部入れていることになる。

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 シングルは、パートナーや家族を通じて人間関係を広げることはできないけれど、時間やお金が自由に使えて、積極的に自由に動ける利点は大きい。

 大人になってから友だちをつくるには、ちょっと努力がいる。でも、それだけの価値がある。時間とエネルギーとお金、この3つすべてを注ぐ。サン・テグジュペリの小説『星の王子さま』で、「友だちになろう」という王子に、キツネはこう答える。

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「きみはまだ、ぼくにとっては、ほかの10万の男の子となにも変わらない男の子だ。だからぼくは、べつにきみがいなくてもいい。きみも、べつにぼくがいなくてもいい… でも、もしきみがぼくをなつかせたら、ぼくらは互いに、なくてはならない存在になる。きみはぼくにとって、世界にひとりだけの人になる。ぼくもきみにとって、世界で一匹だけのキツネになる」(河野万里子訳、新潮文庫)

 それには、毎日同じ時間にやって来て、一定の時を過ごす必要がある。少しずつ会話をして知り合い、それを深めることで絆を結ぶ。そして、互いになくてはならない存在になる、とキツネは教える。これが人間関係のつくり方だ。これをやっていこう。

 分散投資に戻ろう。人間関係を分散投資する(仕事以外に広げる)ときは、ダイバーシティを大切にしたい。同じような年代、同じような学歴、同じような仕事ではなく、いろいろな年齢、性別、仕事、国籍、文化、経済力の人たちと友だちになりたい。

 10~30代は、年上の友人から得ることが多いが、40代からは若い友人から学ぶことが多くなる。異性は違う見方、考え方を教えてくれる。仕事が違うと発想が違う。英語ができなくても日本に住む外国人と友だちになれる。外国語を話せれば、もっと広がる。自宅に招き合える関係になったら友だちだ。

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 友だちをつくるには動くことだ。待っていないで自分から動く。食事に誘う、一緒に出かける、イベントに参加する、語学を学ぶ、ボランティアをする。1回きりでなく継続的に。動くには、お金、時間、エネルギーがいる。老後のために毎月5万円貯めるより、3.5万円貯めて1.5万円は友だちづくりにあてるのがいいかもしれない。

 50歳から65歳まで月5万円貯めたら、元本900万円(2%運用で1,048万円)。1.5万円を友だちづくりに使い、貯めるのが月3.5万円だったら元本630万円(2%運用で734万円)。65歳で貯金1,048万円で友だちゼロ。65歳で貯金734万円で友だち15人。

 どちらの老後を送りたいか。決めるのは、これからのあなたのお金と時間の使い方だ。

 コミュニティ。地元の仲間。これがシングルの課題。私にも課題。日本全体にとっても、きっと課題だ。

(文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー)

※個人のお金に悩みに回答する「FP相談」を承っています。FP相談、および本記事に対するお問い合わせはこちらへ。50代からのお金の質問、悩み相談も受け付けています。

中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

1985年よりFP業に携わる日本のFPの草分け。 女性FP協会(現WAFP関東)の設立者の一人、初代理事長。 1991年に会社を設立。パーソナル・コンサルティング、金融記事の執筆、金融企画のアドバイスなどを行っている。マネックス証券創業時より7年間アドバイザーをつとめる。みずほ銀行の夫婦向けマネーサイト「おうちのおかね」(2010―2016)を監修。辛口だが、お金だけにとらわれないユニークで温かいアドバイスが人気。


主な著書に『50代のいま、やっておくべきお金のこと』『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(以上ダイヤモンド社) 『女性が28歳までに知っておきたいお金の貯め方』(三笠書房) などがある。『3日でわかる聖書』『養子でわくわく家族』『神の津波』など、お金以外の著書や翻訳もある。

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