100歳から10年間、介護施設で暮らすと総額2千万円?現役時代の準備が重要
9月14日、厚生労働省は100歳以上の高齢者の総数を8万6,510人(前年比+6,060人)と発表した(プレスリリース資料)。25歳から40歳のミレニアル世代にとっては定年年齢ですら実感に乏しいのに、「人生100年」など想像できない絵空事の世界ではないだろうか。金融機関などが吹聴しているだけと思っている人が多いのも、無理からぬ話だ。
8万人超というのは、大分県中津市(人口約8万5,500人)、神奈川県綾瀬市(8万5,000人)の人口に匹敵する規模だ。9万人ともなると北海道室蘭市(9万1,987人)並みの規模となる。その全員が100歳であることに驚きを隠せないが、50年連続で100歳以上の人口が増加している。今後はどうなるのか、検証していく。
令和2年簡易生命表によると、男の平均寿命は 81.64 年、女の平均寿命は 87.74 年だ。平均寿命とは0歳児が平均して何年生きられるかという予測年齢だ。表は内閣府がまとめた平均寿命の推移だが、終戦ほどないとはいえ、今から74年前には50歳そこそこだった平均寿命が、こんな状況になるとは誰が想像できただろうか。
平均寿命伸長の理由
今後、平均寿命はどのように推移するのだろうか。令和2年版高齢社会白書によると、44年後の2065年の平均寿命は、男性84.95歳、女性91.35歳と予測している。
では、なぜ平均寿命が伸長し続けるのだろうか。筆者が考える第一の理由は、医療・検査技術の進化および新薬の開発である。昔は「不治の病」といわれていた結核も、今では死亡率は激減している。40年ほど前には死に直結するといわれた「がん」も、さまざまな治療方法が開発され、早期発見すれば治る可能性も高くなっている。今後、iPS細胞はじめ再生医療の研究や治験が進むなか、これに伴う検査機器や新薬の開発にも期待がかかる。
第二の理由は、衛生環境や意識の変化だ。例えばトイレだ。半世紀前の日本のトイレ事情は水洗トイレなど一般家庭にはまだ珍しく、トイレは汲み取り式で、悪臭を放つ汚い存在だった。それが今では、先般閉会したオリンピックの海外選手からも日本のトイレが絶賛されるほど世界に誇れるように進化した。
第三の理由は住宅・空調環境の進歩だ。昔の家は木造で、40年前はエアコンがある家など珍しく、水風呂に入りながら大学受験の勉強をした人もいる。洗面所や台所は水しか出ず、冬になると「しもやけ」や「あかぎれ」になる人が多かった。
第四の理由は、衣類や寝具の進化だ。ユニクロのヒートテックに代表される吸湿発熱素材、吸湿発熱ウェアの開発は、冬のファッションシーンを塗り替えた。寝具も、かつては冬はすきま風の吹く部屋の中でせんべい布団に重い掛け布団をかけて手足を丸めて寝るのが一般的だったが、今は体圧分散の敷きマットや羽毛布団も進化している。
こうした住環境の激変に加え、人々の食生活の変化やコロナ禍になり加速した健康意識の変化を思うと、100歳寿命を阻む要素が見当たらないことに気がつく。ミレニアル世代がどう捉えようと、「人生100年時代」は現実的に捉えなければならない問題ではないか。
100歳以上の方は費用をどう工面?
特に懸念されるのが介護費用だ。地方では入居費だけで平均して1カ月12~16万円前後、首都圏では15~20万円前後の介護施設に入居される方も多い。例えば、100歳から110歳まで有料介護施設に入居したとすると、毎月15万円×12カ月×10年で1,800万円となる。
施設によっては光熱費が別のところもある。健康保険・介護保険代、投薬を含めた医療費、おむつ代、下着などの衣類費、小遣いなど毎月5万円を計上すると10年で600万円で、合算すれば2,400万円となる。老後2,000万円問題どころではないことがわかる。
実際に100歳以上の方は費用をどう工面しているのか。筆者は100歳以上で首都圏の有料介護施設に入居している複数の方に聞いてみたことがある。有名企業で役員をしたり、校長を経験した方などは、年金受給額が多いのでそれほど負担を感じていないという方もいた。また、一般サラリーマンでも株や保険の運用利益でサポートしたり、不動産などの不労所得を得ているという方も少なくなかった。平均的なサラリーマンだったある方は、30代に病気でエリート街道から外れたことで不労所得に目覚め、節約を重ねアパート経営を始めた人もいる。
高額所得者の子どもから毎月20万円の仕送りを受けているケースや、子どもたちが月2~3万円ずつ出し合っているケースもあった。
有料介護施設より在宅のほうが費用は少なくて済むためデイサービスを活用する方法もある。ある家族は全員仕事をしているため日中はデイサービスを利用し、帰宅後は家族全員で面倒を見て経済的不足分を補っているというケースもある。
目新しいのは「孫ターン」だ。祖父母の面倒を見るために、孫が親の出身地に戻る例も現れだしている、先日、高円宮久子さまの三女、守谷絢子さまが久子さまのご高齢の母上の邸宅に家族で引っ越され、「おばあさま孝行」をされたとの報道があった。
人の寿命は神のみぞ知る。しかしながら、「こんなはずではなかった」ということがないようにするためには、人生100年時代が訪れることを、まず受容することが肝要だと考える。そして、現役世代から副業や資産運用、不労所得などを意識することだ。過去の高度成長期のように「何も考えなくてもなんとかなる」という時代は、二度と訪れないかもしれない。
そのためには、ネットで情報を集めるだけではなく、時間と労力をかけ、アドバイスしてくれる人を見る目を養うことも忘れずにいることだ。
人は一人では生きていけない。日本では墓地、埋葬等に関する法律が制定されている以上、火葬やご遺骨の問題が生じるため、親族が見放したとしても、病院や行政やNPOの方など、誰かの世話になることを忘れてはいけない。
こうしたことを踏まえて、ミレニアル世代は、最後まで自分らしい生き方をするために、今後のライフプランや資産づくりについて再検討していただければと思う。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会理事長、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)