仮に「書き上げ」の全額融資で1億円の投資物件が買えたとする。その物件の経営利回り(税金や管理費等の支出を差し引いて算出した投資額に対する利回り)が6%、金額にして600万円だったとする。一方、借入金利は1.5%で25年の元利返済。年間返済額は約480万円。1年間で手元に残るのは約120万円ということになる。投資額1億円に対しては1.2%。この場合、借入金利は変動である。
仮に金利が2%上がるとどうなるのか。1年間の返済額は600万円を超える。その時点でキャッシュフローは赤字になる。仮に投資したアパートで不具合が発生したら、その補修分は完全な赤字。あるいは、退去者が出て6%分の家賃収入が減っても赤字。
この投資家は、早々に赤字物件を売却しなければならない。しかし、借入金利が3.5%の市場環境だと、利回りは9%以上ないと買い手が付かない。この場合だと物件価格は約6666万円となる。その額で売却できても、3000万円以上の負債が残ることになる。
かつてない不動産投資ブームの反動
以上は極端な例を挙げているのではない。ほんの2年ほど前までは普通に行われていた個人の不動産投資のありふれたケーススタディなのだ。その当時も今も、ほとんどの個人投資家は「金利が2%上がる未来」は永遠に来ないと考えている。そうでないと、上記のような投資はできない。
しかし、世界経済を支配するアメリカではここ2年ほどで2%ほど金利が上がっている。日本でもいつか金利は上がるはずだ。長期金利が0%という今が異常であることを、不動産市場も個人投資家もまったく理解していないか、あるいは見て見ぬフリをしているのか。
ただ、日本の金利を実質的に支配している日本銀行には、今のところ金利を上げようとする気配は微塵もない。むしろ「必要ならさらなる金融緩和を」というポーズを取っている。傍から見ていると、今以上の金融緩和の手段などあるのかと思える。日本銀行は打ち出の小槌でも持っているのか。
今のところその気配がないと言っても、それは永遠ではない。何よりもゼロ金利を続けると銀行の経営が悪化する。今年あたり、中小の金融機関のなかには経営危機が表面化するところが出てくるかもしれない。
このゼロ金利をかたくなに守っている日銀の黒田東彦総裁の任期はあと4年。黒田氏を総裁に据えて2期目の続投を許した安倍晋三首相の自民党総裁任期もあと2年半。今は金利上昇の気配はなくとも2年後、3年後はわからない。
そして、金利が上がると先に挙げたような「書き上げ」で不動産投資を行った人々の何割かが自己破産に追い込まれる可能性がある。
不動産投資ブームがかつてないレベルで盛り上がったのだから、その反動による破産者続出の状況も、過去最悪になる可能性がある。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)