この夏の新型コロナウイルスの感染拡大は、今までとは桁違いです。1日の感染者数のピークを見ると、2021年春の第4波までは1万人以下でしたが、同年7-9月の第5波では2万6,000人となり、今年1-4月の第6波では約10万人、そして今の第7波では約26万人にも達しています。倍々ゲーム以上のペースで増えていることになります。この状況は、生命保険会社の予想を超えるものだったでしょう。
保険会社にとって影響が大きいのが、医療保険です。医療保険は、入院すると入院給付金や一時金が出る保険商品です。新型コロナでも入院をすれば、入院給付金や入院一時金が支払われます。新型コロナは原則入院が必要ですが、入院ができないためのやむを得ずの措置として、宿泊施設(ホテル)や自宅での療養も行われました。生命保険各社は、医師の指導のもとに宿泊施設や自宅で療養するケースについても「みなし入院」として、入院給付金を支払うこととしました。
ところが、その後の第6波、第7波で「みなし入院」となる人も、倍々ゲーム以上のペースで増えていきます。報道によると、今年6月の国内生保の入院給付金の支払いは、2020年の同月に比べて100倍以上になっています。そしてその多くが「みなし入院」によるものだというのです。第7波の影響はこれからで、いったいどれくらいの支払いになるのか、見当もつきません。
最近の新型コロナは比較的症状が軽く、入院するまでもないような症状の人が多いようです。それでも医師の診断を受けていれば、「みなし入院」となり、保険会社は入院給付金や入院一時金を支払います。保険会社にとっては、「みなし入院」が経営のリスクになっています。もともと低金利で保険会社の運営は厳しい状況が続いていました。それに追い打ちをかけるような支払いの増加は、経営体力が弱い会社にとって影響が小さくありません。
さらに、不正加入の疑いがある案件も増加しています。加入直後に「みなし入院」が発生しているケースです。もっとも、今はいつ感染してもおかしくないような状況で、不正かどうかの判断は容易にはつきません。対策として入院一時金の金額を引き下げた保険会社もあります。
さらに混乱を招きかねないのが、都道府県によって扱いに差があることです。神奈川県や兵庫県では、医師の診断を受けずに抗原検査キットで検査しネットで登録した人にも「療養証明書」を発行しています。発熱外来のひっ迫を避けるための県独自の施策です。その証明書があると、医師の診断がなくても、多くの保険会社で「みなし入院」として扱います。このあたりの扱いは都道府県によって異なりますので、保険金が出るかどうかも、お住いの地域によって異なることになります。今までにはなかった事態ではないでしょうか。
保険商品の収支で金額を調整するのは自然
保険会社としては今の状況を長くは続けられません。何らかの対応を取らなければ、経営の根幹にかかわってきます。保険料の値上げか、保険金の引き下げをすることが考えられます。もともと保険商品は、加入者の保険料で保険金の支払いを賄うものです。保険会社の経営状態は別にしても、保険商品の収支で金額を調整するのは自然なことです。ただ、今の時代は比較サイトや乗合代理店が多く、保険商品は常に他社と比べられます。安易に商品内容を改悪すると、とたんに売れなくなってしまいます。
新型コロナでの宿泊施設や自宅での療養を「みなし入院」から外すように扱いを変更するという話も浮上しています。しかし、保険会社の都合による変更は批判を招きかねません。
保険会社にとって一番ありがたいのは、新型コロナの感染症の分類が変わることです。現在の「2類相当」から、インフルエンザと同じような「5類」への格下げが議論されています。それによって、原則「入院が必須」という状況ではなくなれば、自宅療養を「みなし入院」から外す変更の口実になるからです。
いずれにしても、保険会社が新型コロナに振り回される状況は、当分の間続きそうです。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)