危険ドラッグの摘発が市場拡大という皮肉な事態を呼ぶ“経済学的”理由
ドラッグ所持に対して厳罰化を打ち出すと何が起こるかというと、需要曲線が左にシフトする。以前は「ちょっとおもしろそうだから、やってみようか」と思ったであろう初心者が、「死刑になるかもしれないんだったら、けっして近づきたくない」と考えを改めるようになるので、マーケット全体で需要が激減する。そして均衡点である価格も数量も減り、ドラッグ市場全体が小さくなって供給側も大々的には儲からなくなる。
もともと日本の麻薬や覚せい剤撲滅への取り組みは、このような需要側を減らす試みが中心で、それは経済学的にとても正しいことだった。ところが危険ドラッグの場合、そもそも所持することに対して厳罰化できていないため、従来型の取り締まりができない。そこで苦肉の策として供給側を取り締まっているというのが現状なのだ。それは経済学的にいうと、摘発されたら販売店が店名や場所を変えたりしてイタチごっこが止まらずに、業者がなんとかマーケット拡大の恩恵にあずかろうとする動きを止めることができない。
危険ドラッグをなくしていくためには、違法なドラッグの定義を変えて「危険なものは全部ダメ」というような強権発動をしないかぎりは、経済学的に分析すれば「収まらない」のである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)