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妻が「あるはず」の音声データを提出

森友:自殺した財務省職員の妻、改ざん経緯資料の開示要求…国側「必要なし」と遺族を蹂躙

文・写真=粟野仁雄/ジャーナリスト
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ありし日の赤木俊夫さん(赤木雅子さん提供)

 安倍晋三前首相夫人の昭恵氏が開校予定の小学校の名誉校長になっていた森友学園への国有地売却問題。不自然な「8億円値引き」の経緯が書かれた公文書を改ざんさせられ、2018年3月に自殺した財務省近畿財務局の赤木俊夫さん(当時54)の妻・雅子さん(49)が、国と当時の財務省理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)氏を相手に計1億1200万円の損害賠償金を求めた訴訟の第2回口頭弁論が14日、大阪地裁(中尾彰裁判長 )で開かれた。

 雅子さんは、俊夫さんが改ざん経緯を記録した文書ファイルの提出を、国に求めている。この日、雅子さんは、近畿財務局で俊夫さんの元上司だったI氏(統括国有財産管理官)が、「赤木さんが経緯をこまめに記録した文書ファイルがある」などと話した際の肉声を録音した音声データを裁判所に提出し、国側に改めてファイルの存在の有無を問うたが、裁判所はデータの証拠採用を留保した。法廷でその音声は流されなかった。

 改ざん作業で赤木さんがうつ病を発症して自殺に至ったことは労災認定されている。この日の法廷で国側は「決算文書の改ざんの経緯や内容などの事実については概ね争いはない。したがって回答の要を認めない」とした。雅子さんは「夫も泣いていると思います。『そんなことを答える必要がない』という回答がどれだけ遺族の心を傷つけるか想像できると思います」と訴えた。

 閉廷後の代理人による記者会見に雅子さんは同席せず、生越照幸弁護士は「単純に労働時間だけの問題ではない。より具体的な改ざんの情報、経緯の情報がないと赤木さんの心理的負担の強度はわからない」などと話した。

 I氏は森友学園に近畿財務局が国有地を売却した際の担当責任者で、安倍前首相が17年2月の国会で「私が関わっていたら総理も国会議員もやめる」と言った直後、部下の赤木さんに改ざんを手伝うように命じていた。

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生越弁護士(右)と松丸弁護士

「涙を流しながら抵抗していました」

 音声は、昨年3月にI氏が1周忌の弔問のために雅子さんの自宅を訪ねた時のやり取りの記録である。代理人弁護士から報道陣(大阪司法記者クラブ加盟社)に公開された音声データによれば、I氏の発言は以下のような内容。

「もちろん、判断は、佐川さんの判断です。初めから赤木さんは抵抗しました。涙を流しながら抵抗していました」

「ファイルにして赤木さんがきちっと整理している。全部書いてある。何が本省の指示か。前の文書であるとか修正後とか、何回かやり取りしたようなやつがファイリングされていて、これを見たら、われわれがどういう過程でやったのかが全部わかる」

「あの売り払いをしたのは僕です。国の瑕疵(かし)が原因で小学校が開設できなかったときの損害額が膨大になることを考えたときに、相手に一定の価格、妥当性のある価格を提示して、それで納得できれば一番丸く収まる。(地中のごみの)撤去費用を試算した大阪航空局が持ってきたのが8億円だったということで、それを鑑定評価額から引いただけなんです」

「僕は安倍さんとか鴻池さん(祥肇・元参院議員・故人)とかから声がかかっていたら、正直、売るのはやめていると思います。だからあの人らに言われて減額するようなことは一切ないです」

「少しでも野党から突っ込まれるようなことを消したいということでやりました。改ざんなんかやる必要もなかったし、やるべきではない。まったく必要ないと思っていました。ただ追い詰められた状況のなかで、少しでも作業量を減らすためにやった。何か忖度みたいなことで消すのであれば、絶対消さないです」

 佐川氏の大嘘はばれており、赤木さんが残した文書ファイルについて財務省は「存在しない」とは言えない。といって「あるけれど見せられない」とも言えない。苦肉の策が「開示する必要はない」である。あるともないとも言っていない。 

国側、早々に賠償金を払って済ませる可能性

 雅子さんと相澤冬樹氏(大阪日日新聞記者)の共著『私は真実が知りたい』(文藝春秋)によれば、財務省職員のなかには雅子さんに寄り添うふりをして遺書を見たがり、マスコミへの公開を止めさせて情報を上にあげ、点数を稼ぐさもしい輩もいた。そんな人間ではないだろうI氏。仮に証人に呼ばれれば「隠さず、忖度せず」事実を話してほしい。

 この裁判はまずい事実を隠し通すため、国側が早々と「敗北宣言」して賠償金を払って済ませる可能性がある。同著によれば最初に雅子さんが依頼した弁護士も財務省寄りに動いた。雅子さんが金銭目的でないことを知り、損害請求額を100万円としたのだ。

 雅子さんが不審に思って解任し、後任の松丸正弁護士は「これでは認諾(原告の請求を全面的に認めて裁判を終結させること)される」と見破り請求額を大幅に引き上げた。

 首相が交代すれども森友学園問題を終わらせてはならない。とりわけ、犯罪である文書改ざん問題を。過労死問題などで活躍する弁護士、松丸氏と生越氏の手腕に注目したい。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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