久しぶりの首相交代、しかも想定外の展開に動揺したのか、あるいは訴求力に重きを置いたのか、新首相に就いた菅義偉氏の経歴を伝える報道は混乱していた。東北の田舎から集団就職で上京、零細工場で働きながら夜学に通う、果ては出身大学の過小評価等々、就任前後の記事には誤りが目立った。首相と同じ団塊世代である記者OB氏はいう。
「俺たちの世代で地方から東京の私大に通えるのは、少なくとも中流以上の家庭だった。アルバイトに明け暮れるのは今も昔も普通のこと。(書き手は)そのくらいのことを知らないのか」
それから10年後の筆者の世代にしても、状況はそれほど変わらなかった記憶はある。
政治家を志向する者ならば、誰しも国会議員、赤い絨毯の上を闊歩することを目指すのだろう。そして最終的には大臣に登り詰めることを夢見るのではないか。しかし、この出世双六を実現できるものは、きわめて少ない。平成に入ってからこの30年あまりを見ても、閣僚になった国会議員は400名に満たないのだから、正真正銘の狭き門だ。
それでは、いったいどのような経歴を持つものが、政界ピラミッドの最上部にたどり着けたのか。よく見られる国会議員の大学別の出身大学ランキングではなく、閣僚のそれを調査してみた。
結果は、ほぼ予想された通りになった。政治のみならず、実社会の各分野で分厚い人脈を形成している東大、早稲田大、慶應義塾大が、議員数そのもの多さもあり、他校を引き離してトップ3を占めている。以下、中央、京大、日大と、大学別の各種ランキングで上位に登場するお馴染みの大学が続く。
もっとも仔細に見ると、相応の個性は感じられる。見ての通り、出身大学がきわめて幅広い。旧帝クラス以外の地方の国立大学ばかりではなく、医科や歯科大学の卒業者も含まれる。また国内を代表するクラスの企業の社長や重役では珍しい非大卒者が少なからず存在するのは、広範な民意を反映する政治の世界らしいところだ。
文系出身者に著しく偏った内閣
首都圏の富裕層の子女が集まるイメージの強い大学が上位にランクインしているのは、やはり世襲議員の影響が現れているのだろう。「資産家の保護者は子供に負担を強いる一般入試を敬遠して付属高校を選択するようになっている」(学習塾関係者)ようだから、こうした傾向は今後さらに強まるのかもしれない。
気になるのは理工系学部出身大臣の少なさだろう。もともとの絶対数が少ないことはあるにしても、法学部、経済学部出身の大臣が幅を利かせる一方で、理工系は農学系を含めて、わずか数名にすぎない。
コロナショック以降、給付金の支給をめぐるたび重なる不手際や、先頃の東証の全面的なシステムダウンなどで顕在化して、対処すべき喫緊の課題になっている、情報通信システムの後進性や脆弱性を考えると、総じてITのスキルが低い文系出身者に著しく偏った内閣の構成は、改めるべき時期に来ているのではないか。
平成以降の閣僚の出身大学ランキング
東京大107人、早稲田56人、慶応48人、中央25人、京都大18人、日大13人、明治8人、学習院・上智・成城各6人、一橋大・法政・関西各5人、東北大・青山学院・立教各4人、北海道大・成蹊・専修各3人、東工大・横国大・神戸大・九州大・三重大・広島大・東京薬科・拓殖・玉川各2人、弘前大、群馬大、千葉大、筑波大、東京海洋大、東京農工大、岐阜大、大阪大、兵庫県立大(旧神戸商科大)、鳥取大、愛媛大、宮崎大、熊本大、大分大、防衛大学校、ICU、聖心女子、昭和薬科、創価、東海、東京歯科、東京都市(旧武蔵工業)、明治学院、中央学院、関東学院、同志社、大阪医科、甲南各1人
※数値は平成以降。国内の最終学歴で調査。内閣改造や首相交代後の再任・横滑りはカウントせず。民間らの登用は除外。
(文=島野清志/評論家)