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藤野光太郎「平成検証」改正水道法の急所(1)

安倍政権、強硬に水道の事実上完全民営化を進める背景…“外資支配”に貢献する麻生太郎副総理

文=藤野光太郎/ジャーナリスト
安倍政権、強硬に水道の事実上完全民営化を進める背景…“外資支配”に貢献する麻生太郎副総理の画像1安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理(右)(写真:日刊現代/アフロ)

 2018年12月6日、国会で「改正水道法」が可決・成立し、同月12日に公布された。同法は公布日から1年以内に施行される。

 かつて「水道民営化」で水質悪化や料金値上げなどにあえいだ諸外国は、民間企業と契約して数十年を経たのち、続々と「再公営化」に向かった。それらの失態を見聞きした日本の世論は、今回の法改正が「水道民営化への扉を開く」と反発したが、安倍晋三内閣は「そもそも民営化ではない。水道管の老朽化対策には官民連携による民間資金の活用が必要」と押し通し、法案を強行採決した。

 実は、改正水道法の条文にはカラクリがある。本稿では、ほかの周辺法や制度と連動して仕込まれた法改正の急所と狙いを、懸念される「民営化」や「外資支配」の虚実とともに数回に分けて明らかにする。

厚労省が「すべての管路改修に130年」と試算

 日本の水道普及率は97.9%。管路(水道管)の総延長距離は地球16周分の66万㎞。有収水量は1日で約3600万立法メートル(厚生労働省が17年にまとめた資料より抜粋。以下同。「有収水量=料金徴収対象の水量」は15年実績)。その水質は極めて高く、水道管は原則として人が住む全国の隅々にまで行きわたり、利用料金も低額で安定している。まさしく世界に誇る水道インフラだ。

 水道は水を運ぶ社会基盤である。水は空気とともに生存に直結するため、その公益性は数あるインフラのなかでもっとも高い。そのため、水道事業はこれまで個別委託を除けば「営利事業」から隔てられ、地域住民の生活を守るべき自治体などの公的主体が経営してきた。

 国内で人や企業が使う水は、海水を淡水化した人工の水を除けば、水源となるダムや川から取水される。そこから導水管を通って水道用水が浄水場に運ばれるまでの供給事業数は92。浄水場から配水池へと流れ込み、配水管で各地域に送られた水が給水管を通じて利用者に届けられる。配水池から先の供給事業数は上水道が1355、簡易水道が5133。これらを担う事業体は、従来から個別業務を民間にも委託してきた。

 厚労省は、水道の現状をまとめた資料で「管路の法定耐用年数は40年」「改修を要する年間更新率は全国平均で約0.75%」と報告した。この更新率で100%を割れば133.3。厚労省は「全ての管路改修を終えるまでに130年かかる」と試算している。水道事業関係者は、老朽化した水道管の改修費を1億円超/kmと見積もっている。

 同資料に管路総延長中の必要更新比率が明記されているということは、国や自治体、個々の事業体が、経年劣化する管路に改修が必要なことを承知していたということだ。それにもかかわらず、将来の設備投資としてそのコスト試算を組み込んでこなかったのはなぜか。

 生存に欠かせない公共サービスを財政難を理由に放り出せば、政府や自治体の存在意義は失われる。従って、その維持・管理・運営に要する予算措置は当然、最優先されねばならない。利権優先で無駄なハコモノや天下り用の特殊法人を量産したり、自国の財政事情を承知で莫大な金を国庫から海外支援にばらまいたりすれば、納税者の金が水道改修のような公益事業に回せなくなるのは自明の理だ。

麻生太郎の「日本の水道は民営化します!」発言

 18年暮れに成立した改正水道法は、サービスの劣化を招く民営化につながるとの強い批判を浴びた。しかし、安倍内閣は「改正水道法は民営化などではなくコンセッション方式である」「民間企業のノウハウを活用してコストダウンすれば水道料金が抑えられるし、老朽化した水道管の改修費も出てくる」として世論の批判を一蹴し、法案を強行採決した。

 コンセッション方式とは、自治体などの公的主体が公共施設を所有したまま、料金収受業務を含む包括的な「運営権」を企業に売却する仕組みだ。東日本大震災が勃発した11年、「改正PFI法」(PFI=プライベート・ファイナンス・イニシアティブ/民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)が成立し、コンセッション方式による契約が実施可能となった。

 政府は水道民営化を否定する。だが、この改正PFI法(以降、本稿では便宜上「旧PFI法」と呼称する)を法的根拠とする水道事業のコンセッション契約は、運営だけでなく施設も売却する「完全民営化」にもっとも近く、それは「事実上の民営化」である。

 なぜなら、施設所有権が自治体に残されても、運営権を長期的・包括的に握る民間企業が日常的にもろもろを決定すれば、それは実態としての「経営」そのものだからだ。検針や浄水場管理など個別業務の委託は従来から行われてきたが、コンセッション方式はまったく次元の異なるものなのである。

 改正水道法への反対世論には、再公営化する海外の経過を見て「日本の水も民営化で外資に支配されるのではないか」との不安が含まれていた。その不安を煽った張本人が、安倍内閣で金融担当の内閣府特命担当大臣や財務大臣など要職を担う麻生太郎副総理である。

 すでに広く知られた麻生氏の発言「日本の水道は民営化します!」は、改正水道法の狙いを検証する上で欠かせないトピックでもある。講演の前段も加えて、ここで正確に再録しておこう。

 13年4月19日(米国東部時間)、米国本拠の民間シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の会見に登壇した麻生氏は、満面の笑顔で開口一番「麻生太郎です。私も戻ってきました!」とあいさつし、米国産業が関心を抱きそうな日本のさまざまな市場について“報告”した。講演後、質疑応答の後半で麻生氏が得意げに宣言したのが水道民営化である。以下は、そのときの発言を文字に起こしたものだ(用語の重複や接続詞は筆者が一部加工。それ以外の名詞や数字などは原文ママ)。

「……水道とかいうものは、世界中ほとんどプライベートの会社が運営しておられますが、日本では自治省以外では扱うことはできません。水道料金を99.99%回収するシステムを持っている国は日本の水道会社以外にはありませんけれども、この水道はすべて、国営もしくは市営、町営でできていて、こういったものをすべて民営化します! いわゆる公設民営などもアイデアとして上がってきつつあります」

 講演冒頭の「戻ってきた」が「米国に」なのか「CSISに」なのかはよくわからないが、それはある意味で、質疑応答で洩らした「民営化宣言」以上に衝撃的だと受け取る国民も少なくないのではないか。

水メジャーの仏ヴェオリアがすでに日本進出

 水道の分野でコンセッション方式による国内初となった成約事例が、静岡県浜松市とフランスのヴェオリア社を代表とする6社連合(ヴェオリア・ジャパン、ヴェオリア・ジェネッツ、JFEエンジニアリング、オリックス、須山建設、東急建設)の特別目的会社HWS(浜松ウォーターシンフォニー)との「下水道コンセッション」である。

 HWSが運営するのは、浜松市内で下水5割を処理する終末処理場の西遠浄化センターやポンプ場など。契約書に記載された契約期間は17年10月30日から38年3月31日の約20年間。同市と運営権者HWSが合意すれば、最長で43年3月31日まで延長される。期間中に同市が得る運営権対価は25億円だ。

 仏ヴェオリア社は、周知のように「水メジャー」として知られるフランス本拠の多国籍巨大企業。水処理では世界最大手だ。同社のような水メジャーの多くは欧米本拠である。麻生講演の質疑応答で、隣に座る米CSIS日本幹部を気にしながら麻生氏が「戻ってきて報告した面々」は、同社をはじめとして日本の水道インフラ市場に業務委託その他のかたちですでに広く深く潜り込んでいる。

 今年1月18日現在、水道コンセッションの成約事例は浜松市の下水道だけだが、旧PFI法で水道コンセッションが広がらなかったことにいらだっていた政府は、その内容をさらに強化した改正PFI法を18年6月に成立させ、同年10月1日に施行している(以降、こちらは「新PFI法」と呼称する)。今回の改正水道法が成立したのは、この新PFI法成立の2カ月後である。

 新旧のPFI法を並べて照合すると、水道事業の運営権売買を検討する自治体と民間企業に対して、そのコンセッション契約を急増させるための強力な変更点が2つ盛り込まれている。ただし、あらかじめお伝えしておくが、本稿で指摘しようとしている問題は新PFI法で変更された事柄だけではない。

 次回、改正水道法が新PFI法を含むほかの法律や制度とどのように関連しているかを、条文から拾い出して具体的に検証する。各々の条文が互いにリレーし合い、関連付けた「法の整合性」にこそ、改正水道法の本当の狙いが潜んでいるからである。
(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)

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