東京都は、明治神宮外苑の再開発事業の施工を2月17日に認可した。事業者は三井不動産、伊藤忠商事、明治神宮、日本スポーツ振興センター。老朽化した神宮球場と秩父宮ラグビー場は場所を入れ替えて新築するほか、オフィス・商業施設の高層ビルなどを建てる。総事業費は3490億円だ。施工認可により、既存施設の解体など具体的な事業の着手が可能となった。解体に向けて仮囲いの設置作業などはすでに始まっている。
高層建築物が並び、外苑の景観が一変するとともに、周辺住民らがとくに問題視しているのは、3000本もの樹木が伐採・移植されることだ。周辺住民ら約60人は2月28日、東京都の施工認可の手続きは違法だとして、都に認可の取り消しと1人当たり1万円の慰謝料を求め、東京地裁に提訴した。
施工認可はそのまま継続している
東京都の環境影響評価(アセスメント)審議会は昨年ずっと議論を続けていたが、年末の12月26日に収束した。しかし、ユネスコの諮問機関「イコモス(ICOMOS)」の日本国内委員会は、1月20日に事業者側から提出された環境影響評価書には数多くの「虚偽の報告」があると指摘し、事業者側に対し、2月25日までに回答するよう求めた。また、都に対しても、事業者が必ず回答するように指導するよう求めた。東京都環境政策課の担当者はこう話す。
「1月30日に審議会総会を行い、イコモスさんの指摘を受け、審議会は事業者に反証するよう求めた。審議が継続しているという新聞報道もあるが、それは誤認だ。ただ、事業者から反証の報告があれば、あらためて審議会で取り上げる。事業者からの環境影響評価書や着工工事の届け、これはそのまま継続しているので、工事をやってはいけないということではない」
3月6日現在、「事業者からの回答はない」(環境政策課の担当者)とのこと。一方、事業者側の広報を担当する三井不動産の担当者はこう話す。
「これまでの手続きと評価書の内容に問題はない。イコモスさんに対して個別に回答するものではないと考えている。これから都の審議会の場で反証させていただく」
伐採が伴う大規模開発ではないと事業者に旨味なし
昨年11月、事業者側は再開発にともなう樹木の伐採について、本数が当初の計画より約2割少ない743本になると発表した。当初、高さ3メートル以上の樹木1904本のうち892本を伐採する計画だったが、伐採予定だった樹木の一部に保存や移植ができるものがあったとして、2割削減したという。
これに対し、原告側の周辺住民らは、「事業者側は高い樹木743本を伐採すると説明してきたが、伐採樹木に低木約3000本を含めておらず、都の審議会の審査は不十分だった」と指摘しており、小池百合子都知事の認可は裁量を逸脱としていると訴えている。
ちなみに、日本イコモス国内委員会は昨年、樹木伐採を回避する代替案を出しており、そうすれば樹木は2本しか伐採せずに済むという。その代替案は、野球場とラグビー場を入れ替えず、現在地やその近くで再建するというものだ。しかし、大規模工事が必要なくなると事業者側にとっては再開発の旨味が少なくなってしまうのは容易に想像がつく。受け入れる余地はないということだろう。
樹木の伐採本数は、後出しジャンケンみたいなもの
樹木伐採への反対運動は、昨年から急速に盛り上がっているようにも見えるが、なぜだろうか。神宮外苑の再開発計画は2015年に公表されていたが、当時は再開発にともなう樹木伐採について言及されることはなかった。都市計画と樹木伐採の経緯について、都議会議員の松田りゅうすけ氏(日本維新の会)に聞いた。
「再開発が都市計画として議会を通ったのが2015年、都市計画の変更が2016年に通っており、その後も変更のたびに、都議会では審議をしてきた。ただ、都議会は都市計画の初期段階で具体的にどこまで整備するのかということを議論する場。例えば、今回で言えば、ラグビー場と神宮球場の入れ替えとか、そういうことだ。もちろん、緑の被覆面積も審議されるのだが、それが果たして新しい樹木なのか、それとも既存の樹木をそのまま存置できるのか、もしくは移植するのかというところまでにはならない。樹木の伐採本数がどれくらいになるのかという具体的なことは、計画が煮詰まってきた後の議論になっていく」
東京都都市整備局によれば、樹木伐採の話が初めて公にされたのは、2021年8月16日の「環境影響評価書案」公示だ。
「この問題は、公示されてからメディアも取り上げるようになり話題になってきた。ただ、2019年の環境影響評価審議会の議事録を見直してみると、伐採について懸念を示すような意見が出ている。東京都からの公示という意味だと2021年8月だが、その前から審議会では議論になっていたということだ」(松田氏)
神宮外苑の再開発が都市計画として都議会で議論されていたときは、ほとんど樹木伐採が議題になっていなかったことがよくわかる。
「事業者側からすれば、あまり情報を出したくない部分もあっただろう」(松田氏)
2021年7~8月といえば、テレビメディアを中心に、コロナ禍のなかで東京オリンピック・パラリンピックを開催すべきか否かに関する報道一色だった時期だ。また、オリ・パラ閉幕後は「感動をありがとう」ばかりで、神宮外苑の再開発を検証するような空気は皆無だった。
五輪汚職と樹木伐採、すべては五輪誘致に関わる問題
東京オリンピック・パラリンピックのテスト大会に関連する業務入札をめぐって談合が発覚し、大会組織委員会の元次長や電通の元幹部ら4人が、独占禁止法違反の疑いで2月に逮捕された。昨年は組織委員会の高橋治之元理事が逮捕・起訴されたのをはじめ、大会スポンサーのAOKIホールディングス青木拡憲前会長やKADOKAWAの角川歴彦元会長などが贈賄容疑で逮捕された。
東京五輪をめぐる汚職の摘発はまだまだ続く。神宮外苑再開発にともなう樹木伐採も五輪誘致と大いに関係がある。五輪を食い物にして儲けようとしていた連中が跋扈していたということだ。
(文=横山渉/ジャーナリスト)