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東京、水道水からPFAS検出、多摩住民の血中濃度高く…横田基地と関連で水質汚染か

文=横山渉/ジャーナリスト、協力=原田浩二/京都大学大学院准教授
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(「gettyimages」より)

 東京・多摩地域の住民を対象に、血液中にどのくらい化学物質PFAS(ピーファス:有機フッ素化合物)が含まれているか調査を行ったところ、国分寺市を中心とした住民87人の一部は、明らかに血中濃度が高い状態だった。市民団体が1月末に中間報告として発表した。PFASは免疫力低下や脂質代謝異常、さらには一部のがんに関連する発がん性も疑われており、水源に流出したのではないかと不安視されている。検査を行った京都大学大学院医学研究科の原田浩二准教授はこう話す。

「現時点の摂取量で、口にしてすぐに体調を崩すような健康被害、いわゆる急性的な影響はないと考えている。この化学物質の健康影響というのは、非常に多くの人のなかでそういった健康リスクが上がってくるということ。そのリスクが一気に何百倍上がるというものではないが、何らかの病気にかかる確率が一定程度徐々に上がっていくという観点で健康への影響を考えなければならない」

 原田氏は、今後も定期的に調べ続けていくことが重要であると強調する。東京都環境保健衛生課の担当者は「血中PFAS濃度については国内基準がなく、血液検査をしてもそれが高いのか低いのか判断できない」と話す。

撥水加工で重宝されてきたPFAS

 PFASは、人工的に合成された有機フッ素化合物群の総称で、EU(欧州連合)の定義では4700種類以上の物質があるとされる。

「それぞれ性質にかなり違いはあるものの、最終的には分解されにくい性質があり、環境中に残留するというのが一番厄介なところだ。これまで便利にいろいろと使われ、身の回りのものだと、撥水加工なんかはほぼPFASと考えてよい。産業的にも多く使われ、環境汚染が生じてきた」(原田氏)

 4700種類以上あるなかで、現在とくにその危険性が指摘されているのがPFOS(ピーフォス:ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ピーフォア:ペルフルオロオクタン酸)と呼ばれる物質だ。

「PFASのメーカーでもっとも有力だったのがアメリカの3M社だが、その3Mが1940年代から開発・生産してきた代表格がPFOSとPFOAだった。もっとも早い段階から研究され、知られているということであり、これまでの使用量も多かった。他の物質に関しては、まだ研究されていないものも多い」(原田氏)

 この2物質について3Mは、2002年までに自主的に生産中止を決めた。他のメーカーも追随し、今では日本でも製造や輸入が禁止されている。PFASは水や油をはじく性質を持ち、具体的には、フライパンのコーティング処理や、衣服などの撥水剤、泡消火剤、化粧品や半導体の製造などに使われてきた。

「題材としてフライパンがよく持ち出されるが、フライパンはフッ素コーティングをかけるところにPFASが残っているものの、最後に樹脂を加工仕上げするときには、かなりのPFASはなくなる。フライパン自体は、日常使う上では、そこまでPFASを摂取する機会にはならない。ただ、それ以外のいろいろな製品もあるので、実態を調べていかないといけない」(原田氏)

 PFOSとPFOAは、日本でも製造輸入が禁止されているので、今販売されているものにはほぼ含まれていないと考えられる。しかし、その代わりに他のPFASが使われている可能性もあり、そちらについても研究が必要だ。

水道水への流出は?

 今回PFASが検出されたのは、多摩地域の井戸水だった。都は、蛇口から出る水道水について11の浄水施設(7市)で井戸からの取水を停止した。一部浄水施設では約15年前から高濃度で検出されていたという。東京の水道水は井戸水を水源としている地域もあるものの、ほとんどは河川水で、80%が利根川及び荒川水系、17%が多摩川水系だ。

 かつて、水道法に水道水におけるPFASに関する規制はなかったが、2020年4月1日より、水道水質に関する基準等における位置づけが「要検討項目」から「水質管理目標設定項目」に変更された。「PFOS及びPFOAの合算値で50ナノグラム/L以下」とする暫定目標値が適用されている。2021年度に国が実施した河川や地下水の調査では、31都道府県のうち13都府県81地点でこの暫定目標値を上回る高い濃度が検出された。PFOS及びPFOAによる水道水の汚染が懸念される場合、地域住民にできる対策はあるのだろうか。

「水道水をまったく使わないというのは、個人の負担を考えれば勧められるものではない。PFASは物質にもよるが、今問題になっているものについては基本的に、活性炭などを通せばかなり除去できる。高い浄水器でなくてもいいので、100円ショップで買えるようなものでも、ある程度除去できる」(原田氏)

今回の環境汚染は泡消火剤が原因か

 多摩地域の井戸水の汚染源は不明だが、米軍横田基地(福生市など)内で長年にわたり大量のPFASを含む泡消火剤が土壌に漏出したとする報道もあり、関連が疑われている。神奈川県や沖縄県内の米軍基地内や周辺でも、高濃度での検出が相次いで発覚している。

「空港などでの火災に対応するための泡消火剤というのは特殊な消火剤で、身の回りの消火剤にはPFASはまったく入っていない。自衛隊もそうだが、軍関係や空港など、泡消火剤を使っているところがPFASで汚染されている事例は、日本だけでなく海外でも山ほど出ている。ただ、今回の原因がすべて横田基地だとはいえないにしても、原因の1つである可能性が高い」(原田氏)

 PFASを含む泡消火剤で土壌汚染した場合、数十年かけて地下水まで浸透する。それが今、井戸水などに含まれているのかもしれない。環境省は1月30日、PFASへの対応策を検討する「総合戦略検討専門家会議」の初会合を開いた。国民向けに「Q&A集」をつくり、健康への影響など現時点でわかっている情報を発信していくとしている。PFASに関する国内の議論や政府の取り組みは始まったばかりだ。

(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=原田浩二/京都大学大学院准教授)

原田浩二/京都大学大学院准教授

原田浩二/京都大学大学院准教授

京都大学 医学研究科 社会健康医学系専攻環境衛生学 准教授
研究分野:衛生学、公衆衛生学分野、化学物質影響、放射線影響、遺伝学
准教授 原田浩二の研究ページ

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