歯科治療以外では、歯科医師過剰がより深刻になってきました。歯科医院の数はコンビニの数を上回っていることも半ば常識となるほどで、特に都心部での歯科医院の過密ぶりは異常です。こうして歯科医師は余っているのに毎年2000人の国家試験合格者が輩出されています。子どもの虫歯は減り、総人口も減ってゆくのに、歯科医師は増え続けるという超過当競争が常態化する異常な業界になってしまいました。
これらが歯科を取り巻く目立った変化ですが、残念ながら人類にとって宿願である虫歯や歯周病の特効薬や完全予防薬の開発、入れ歯やインプラントに頼らない歯の再生治療といった画期的な治療法などは誕生していません。
20年で筆者の歯はどう変わったか
歯科界には革新的な変化は現れていませんが、20年たった筆者自身の口の中は大きく変わりました。具体的には、筆者も入れ歯になりました。何本か歯を抜き、部分入れ歯を入れています。
歯医者だから歯の状態は良く、入れ歯などは患者に入れるだけで自分では入れないと思われがちですが、そんなことはまったくありません。私たちも人の子ですから、虫歯に泣き、歯周病の激痛に苦しみ、挙げ句に歯を失い、切なく情けない思いを味わいます。この20年での筆者の口の中の変化が、それらの体験を如実に物語っています。
これは決して「医者の不養生」がもたらしたものではありません。曲がりなりにも専門家ですから、自分に必要なケアはしてきました。そのお陰で適切なタイミングで抜歯をし、この程度の状態で済んでいるのだと思っています。
歯そのものの丈夫さ、歯ぐきの丈夫さは遺伝の影響も強く、歯磨きだけで防ぎ切れるものではありません。筆者の両親とも若いうちに歯を失うタイプだったので、その影響が強く、筆者が若いうちに歯を失う大きな要因だったと捉えています。だからといって、間違っても親を恨むことなどありません。むしろ、親を含めて歯で苦労する患者さんの気持ちが痛いほどわかるのです。
筆者が比較的早く歯を失うタイプであることは『いい歯医者・悪い歯医者』でも記しており、死ぬまで自分の歯でいられないことは20年前からわかっていました。そのため、それに見合ったケアはしてきましたし、抜かざるを得ない場合は入れ歯にすると決めていました。もし、遺伝などの要因を考えず、歯磨き信仰を盲信して間違ったケアをしていたら、むしろ失う歯の本数は増えていたでしょう。