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オトコたちのウットリワールド”をぶった斬り!「男性誌」のあぜ道 第10回

男性誌「GOETHE」の体育会系押し出しは、デキる男だが面倒くさいオッサンのよう

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男性誌「GOETHE」の体育会系押し出しは、デキる男だが面倒くさいオッサンのようの画像1「GOETHE」(10月号)の表紙(幻冬舎 HPより)
 ご機嫌うるわしゅう。漆原直行です。やられたら、やり返す。0.39123倍返しだ。

 ……ウソです。やられても、割とやり返しません。

 さてさて、今回、俎上に載せるのはコチラの特集。

「GOETHE」(幻冬舎/10月号)
仕事を極めた者たちの究極空間! 人生を謳歌する家

 同特集の冒頭、ロングインタビューで登場するのは堺雅人氏でございます。大ヒット中のドラマ『半沢直樹』に主演する堺氏を、特集のアタマだけでなく表紙にも持ってくるあたり、さすがのキャスティング力かつ人選のタイムリー感。それが奏功したのか、今号はAmazonにおいて発売早々に一時欠品となり、大人気の様子。素晴らしいですね。

 さて、堺氏のインタビューに続いては、成功者たちのお宅訪問。夢のような……というか、想像を絶するあまりイライラくるような、素敵なお住まいの数々が紹介されます。國分利治氏(アースホールディングス代表取締役)、高野友梨氏(たかの友梨ビューティクリニック代表)、中島薫氏(ヘッケル代表取締役)、森田恭通氏(グラマラス代表取締役)、岩橋麻男氏(ブーフーウー代表取締役)、渡辺雅司氏(船橋屋代表取締役)、鶴原智也氏(不動産コンサルタント)といった錚々たる面々が、自慢の素敵空間を惜しげもなく披露してくれているわけです。どれもこれも溜息が出るような暮らし。これが“極めた者たちの究極空間”なのですね。

 この企画で紹介されている物件がひと味違うのは、筋の通ったこだわりと、ギリギリの品の良さを携えている点。例えば、成金的な金持ちがムダに広いだけの超高層億ションの最上階ペントハウスに、ただカネにモノをいわせて家具や調度品を脈絡もなく買い集めて、センスなく並べてドヤ顔をしている……みたいな趣味の悪さは、総じて少なめ。各自にこだわりや思想があって、それをセンスよく住まいに反映させている感じなのです。

 なるほど、どれも確かにスマートです。半面、真似できない感が圧倒的でもあり、庭にある広々プールの写真を見ていると、おのが暮らしの庶民っぷりにささやかな敗北感すら覚えてしまうのです。まあ、そういう心理を一方では「憧れ」といったりするのかもしれませんが、ムズムズくること、この上ありません。

●敏腕ビジネスマン的な押し出しの強さに見え隠れする“チグハグ”感

 そんな感じで、ジワジワと負け犬根性に蝕まれそうになるところ、絶妙な箸休めコーナーが読者の心情を安らげてくれます。これもGOETHE一流の押し引きなのでしょう。

 まずは「豪邸に置くなら一番いいモノを! 世界一高い!?○○」のコーナー。「世界最大級の光を放つ250灯バカラシャンデリア 約6億3000万円」なる照明とか「ロシアの富豪を魅了したアマゾン産クリスタル 約7600万円」なるバスタブ、「宇宙旅行より高価な宙に浮く寝心地はいかに? 約1億5400万円」なるベッドなど、高価すぎるアイテムが紹介されています。ここまでくると、もはやギャグです。笑い飛ばすしかありません。

 さらに「不動産の賢者が強力オススメ!『この海外物件、買うなら今です!』」のコーナーでは、「富豪の国随一の高層階は3300平方メートル!」というモナコの超高級コンドミニアム約24億円~、「高級別荘地で大統領気分を満喫」というハワイ・オアフ島の一戸建て約11億4400万円、「グラン・クリュでワイン飲み放題生活!?」というフランスのワイナリー付き一戸建て約6億1200万円といった、資産価値、投資価値も高そうな物件が紹介されます。ほう、これはとても役立ち……と感じるような経済観念の読者がどれほど存在するのかはよくわかりませんけど。

 本連載の第2回でも触れたように、GOETHEは「なんだかんだいって、仕事のデキる男が一番カッコいいよな」「とにかく仕事しろ。ガンガンうまいモノ食って、いい時計して、イカしたクルマに乗って、そして遊べ」みたいな精神性──ワーキングマッチョ的な価値観が通底している雑誌です。それは時として、ゴリゴリとした体育会的な押し出しの強さにも繋がるところがあり、要するに仕事はデキるし遊び上手だけど、面倒くさいオッサンみたいな印象を醸すわけですね。

 そういう視点では「成功者たちのカッコいい家を見て感化されようぜ。そして、ガンガン働いて稼ごうぜ」という趣旨なのかもしれませんが、このご時世、持ち家を所有するだけでもそりゃ大変だったりします。だからなんとなく、上滑り感というか、置いてきぼり感を覚えずにはいられないのです。
 
 そんなこんなで、特集冒頭の堺雅人氏のインタビューに戻るのですが、ここで堺氏は次のように発言しています。

『豪邸かぁ……多分、住んだら気持ちいいんでしょうけど、僕は結局本棚と机があれば充分な人間なんです』

『一市民として生活しながら、芝居をやっていきたい』

 こういう、いい意味での庶民感覚、バランス感覚を感じさせる職人気質な名優のインタビューと、前述した(豪邸自慢みたいな)本編記事との微妙なズレが、全体を通して読むとどうも気持ち悪いのです。なんか、チグハグとしていて。まあ、『半沢』人気に当て込んで誌面に堺氏を引っ張ってきたのでしょうし、家特集にインタビュー記事を半ば無理矢理ハメ込んだのが実情なのでしょう。でも、せっかくの良インタビューが台無しという気もします。

 そういう強引さもGOETHEの作風といえば、それまでなのですが……。
(文=漆原直行)

【プロフィール】
漆原直行(うるしばら・なおゆき)
1972年、東京都生まれ。編集者、記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中からライター業を始め、トレンド誌や若手サラリーマン向け週刊誌などで取材・執筆活動を展開。これまでにビジネス誌やIT 誌、サッカー誌の編集部、ウェブ制作会社などを渡り歩きながら、さまざまな媒体の企画・編集・取材・執筆に携わる。ビジネスからサブカルまで“幅だけは広い”関心領域を武器に、現在はフリーランスの立場で雑誌やウェブ媒体の制作に従事。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』『ネットじゃできない情報収集術』などがある。

BusinessJournal編集部

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