12周年の男性誌『LEON』、徹底的にブレない「オヤジのユートピア」追求の姿勢
それはさておき、今回取り上げるのはこちらの特集。
『LEON』(主婦と生活社/11月号)
「ハイカロリーでローファット」がこんな時代の新機軸です!
モテるオヤジの作り方 2013秋冬編
今回の『LEON』は12周年記念号だそうで、見るからに豪華。表紙の誌名や特集タイトルが、金色でピカピカしております。さらにはそのブ厚さ。通常よりもおよそ250ページ増量だそうで、普段からわりと重めの同誌がさらに凶悪な重量を発揮しているのです。これを振り回せば、きっと暴漢だって撃退できることでしょう。アタリどころが悪ければ人も殺せてしまうのではなかろうか……てな凶器感。女性誌や結婚情報誌では、それほど珍しくない重量かもしれませんが、男性誌でここまで重い雑誌はそんなに多くありません。
加えて今号では「Golf LEON」と「iLEON」なる2冊の別冊付録も付いておりまして、ダメ押しの重量増をかましながら、読者にドヤ顔で迫ってくるワケです。いやはや、ちょい不良(ワル)オヤジは腕力にも自信があるのでしょうか。私は読みながら、その重さに何度もへこたれそうになりました。
●ひたすら「ハイカロリーでローファット」&「モテ」
で、この特集は12周年記念号を飾るメイン企画だったりします。おめでたい機会ですから、この際、ボリューミーな大特集のコーナータイトルをすべて列記してしまいましょう。
・「ハイカロリーでローファット」なデートはこれ!
・モテるオヤジなら朝の一杯、ひと口にこだわります
・そもそもイタオヤは「ハイカロリーでローファット」
・オフの日のファッションも「ハイカロリーでローファット」が気分です
・プライベート空間もやっぱり「ハイカロリーでローファット」
・いまどきオヤジのモテるインテリア考
・美容こそ「ハイカロリーでローファット」なワザなんです
・モテるオヤジは宿の選びが違います
・「ハイカロリーでローファット」なほっこりコーデが満載でした!
・モテるオヤジはコートでキャラ立つ
・着流しスーツの粋なこなし方
・キメてないのにカッコいい「ゆるアメリカン」
・モテるオヤジは時計の使い分けが巧みです
・モテるオヤジはカットじゃなくてセットで魅せる
・モテるオヤジのデートは「ワン・ツー・フィニッシュ」
・モテるオヤジは女性の扱いだけじゃなく女性モノの扱いも巧みです
・モテるオヤジは「酒落デジ」上手
・秘境への旅で「経験」を 「カワイイね」でめぐり逢いを
……惚れ惚れします。一体、何回「モテ」を叫べば気が済むのでしょうか? いやまあ、それこそ愚問ですね。12年前の創刊以来、一貫してオヤジの下半身の胆力を煽り続けるようにして「モテ」を追求し続けてきたのですから。その徹底的にブレない姿勢は、求道者がおのれの信念を堅守する純粋さのようでもあり、効くのか効かないのか判然としないスッポンドリンクにすがる痛々しさでもあるように感じられるのですね。
●“モテ”にギラギラしたオヤジも宗旨変えのときを迎えた!?
いずれにせよ、確信犯的にオヤジ臭を誌面にちりばめているのは確か。でなければ「『焚火カフェ』で夕焼けにゃんにゃん」なんて見出しを堂々と使うわけありません。普通に考えたら、センスを疑うような言葉選びですから。どこまで本気なの? と問わずにはいられない、どこか浮世離れした“オヤジのユートピア”感こそが、『LEON』の変わらない作風といえるのではないでしょうか。
オヤジのユートピア、という視点でいうと、『LEON』の誌面からは「仕事」のニオイがほとんどしてこないあたりにも注目したいところ。同誌で推奨されているようなライフスタイルを実践するのであれば、相当な可処分所得が必要でしょう。であれば、それなりの社会的地位を備えた敏腕ビジネスパーソンであることが求められるはず。まあ、資産家の血筋に生まれ落ちた御仁だったり、怪しいウラ稼業で暴利を貪っている御仁であれば、話は別でしょうが。
ビジネスシーンに絡めた話題が極端に少なく、ひたすら「ニキータ(同誌で婦女子を指す言葉)」にモテることを軸に誌面を展開させていく非日常感は、どこを切り取ってもギトギトと脂ぎったような質感を放ち、読めば読むほど胸焼けしそうになるのです。それが『LEON』の魅力といわれてしまえば「あ、そうっスよね」としか返せませんけど。
ただ、そういう過剰なギトギト感については同誌としても何か思うところがあったのか、多少バランスを取ろうとしている様子。この特集のタイトルに謳われている「ハイカロリーでローファット」の真意は、冒頭のリード文によると、次のようなことらしく。
「要するに、これまでどおりに ラグジュアリーの本質である リッチさや、上質感や それを手にする感動などは そのままの『ハイカロリー』で しかしこれまでの ラグジュアリーとは ちょっと違う リラックス感や、温かみや さり気ない和んだ感じのある 『ローファット』というのが 今の時代にピッタリの ラグジュアリーの新機軸」
えーと……わかるようでイマイチわからないのですが、要するに「オーガニック」とか「チルアウト」とか、そういうニュアンスを理解できるのがカッコいいオヤジである、ということでしょうか。これまでさんざん、草食小僧を揶揄したり小バカにしたりしてきた『LEON』でしたが、ようやくイマドキ感のある現実的なモテ要素に歩み寄ってきたようにも受け取れます。これって実は、かなり劇的な出来事なのかもしれません。もっとも、来年の今頃には、臆面もなく、さらなるギトギト濃厚路線を強く押し出しているかもしれない──そう思わずにはいられないスノッブさも、これまた『LEON』らしさなのでしょう。
ちなみに今回の特集で私の記憶に残ったのは、世界各国の言葉で「カワイイね」をなんと言うのか、というミニコーナー。「ジャミーラ(アラビア語)」とか「グワパ(スペイン語)」とか、とってもタメになりました。おそらく1週間後には忘れていると思いますが、どんな状況でも「モテ」を忘れない姿勢くらいは心の片隅にでも留めておきたいところでございます。
そんなこんなで、雑誌の休刊(という名の廃刊)が相次ぐ世知辛い時流を乗りこなし、創刊12年という節目を迎えられましたこと、末端の末席からお祝いを申し上げます。これからも、御誌のことを生温かく見つめていく所存です。
(文=漆原直行)
【プロフィール】
漆原直行(うるしばら・なおゆき)
1972年、東京都生まれ。編集者、記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中からライター業を始め、トレンド誌や若手サラリーマン向け週刊誌などで取材・執筆活動を展開。これまでにビジネス誌やIT 誌、サッカー誌の編集部、ウェブ制作会社などを渡り歩きながら、さまざまな媒体の企画・編集・取材・執筆に携わる。ビジネスからサブカルまで“幅だけは広い”関心領域を武器に、現在はフリーランスの立場で雑誌やウェブ媒体の制作に従事。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』『ネットじゃできない情報収集術』などがある。