特に、BtoB領域では、従来はやらなかったような会社がマーケティングをしています。例えば、溶接会社の米ミラー・エレクトリックは、溶接の知識をネット上に詳細に公開することで成功しています【編註:ミラー・エレクトリックは、ウェブサイトでターゲットセグメント別に発信する情報を出し分けて成功している】。これはコンテンツマーケティングの成功例でもあります。
また、米アマゾン・ドット・コムのように、サイト上で潜在顧客を実際の顧客に変え、ロイヤル顧客を増やし、最大の顧客満足を得ていく手法は、「マーケティングオートメーション」といわれていますが、ネットならではの手法といえるのではないでしょうか。昔ながらの対面販売を、ネット上でシステマティックに行うわけです。米セールスフォース・ドットコムなどは、この分野で先駆けています。
一方、広告については、ネット広告費が年間1兆円に達する時代になりましたが、実は小さい金額の積み重ねでできている市場です。従来のマス広告がダメになったわけではありません。新たにネット広告の世界ができた、と認識したほうがいいと思います。
また、寡占化という現象にも注目しています。日本でも銀行が3つのメガグループに集約され、アメリカでもメディアがいくつかの企業グループに集約されてメガ化しています。マーケティングの世界でも、事業会社の寡占化、プラットフォーム化はどんどん進んでいます。つまり、一方では中小企業もマーケティングを行える環境になったのですが、もう一方では巨大資本同士がマーケティングで競争し合う、メガ競争の世界になっているともいえます。
ネット広告の関係者はよく、「マス広告の効果は計測できない」といいます。でも、それは本当ではありません。もし、マス広告の効果がわからないのであれば、誰も何十億円も投下してテレビ広告を打っていないでしょう。大手の消費財メーカーなど、テレビ広告を大量に行う企業は、おおよその広告効果は把握しています。つまり、どれだけGRP(延べ視聴率)を投下すればどれだけ売れる、ということがある程度わかっているのです。実際、アメリカでもシングルソースデータを用いて、すでに80年代の終わり頃までには、テレビ広告の効果について科学的な測定ができるようになっていました。
しかし、ネット広告の時代には、その公式がわからなくなってしまいました。いくら投下すればどれだけ売れる、という公式がはっきりしなくなってしまったのです。従って、私の認識では、むしろテレビ広告全盛時代よりも、現在のほうが広告効果を把握できなくなったと思います。ただし、eコマース(電子商取引)のようなオンライン販売の場合は異なります。こうした顧客への直接的な販売では、インターネットの効果測定は容易なものとなります。