仕事の悩みやキャリア設計は、いつの時代にも存在する普遍的なテーマなのかもしれない。しかし、そこには「決まりきったルート」など、ないのではないだろうか。例えば、落語家の立川志の春氏は、米イェール大学を卒業して三井物産に入社後、立川志の輔氏の落語に衝撃を受けて、噺家に“転職”した異色の存在だ。
高学歴で大企業勤務――そんな経歴を捨て、不安定な落語の道に飛び込んだ志の春氏は、2月に『自分を壊す勇気』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓した。
今回は、そんな志の春氏に
・キャリア設計
・前座時代の苦労
・目指す落語家像
などについて聞いた。
三井物産→落語家(前座)の激しいギャップ
–本書のタイトルは『自分を壊す勇気』ですが、「壊す」前に志の春さんは自分のそれまでの経歴を「捨てて」いるように見えます。世の中には、志の春さんが捨てた経歴を目標にしている人も多いと思います。
立川志の春氏(以下、志の春) 一般的にはそう見えるかもしれませんが、私としてはすべてつながっているので、「壊す」ことのほうが衝撃は大きかったです。落語家になる前の経歴があるからこそ、このように本を書いたり取材の機会をいただいたりしているわけです。だから、決して「捨てて」いるのではなく、「辞めた」だけという感覚です。「こっちじゃない」道が、はっきりと見えてしまったのです。デートの途中でたまたま師匠(立川志の輔)の落語を聞くことになり、その時の衝撃がどうしても忘れられず、会社を辞めて弟子入りしました。もちろん、会社を辞めたからといって簡単に落語家になれるわけではありませんでしたが(笑)。
–本書のタイトルではないですが、「大企業をサッと辞めるなんて、勇気があるな」と感じる人も多いのではないでしょうか。
志の春 20代だったからこそ、できたのだと思います。会社の中でキャリアを築くという段階までいっていなかったし、独身でした。まだまだ、人生といえるほどのことが始まっていなかったのです。仕事で実績を上げていたり、家族がいたら、師匠の落語にいくら衝撃を受けても、その道に飛び込むのは難しかったかもしれません。ただ、今言えることは「会社を辞めなければよかった」「同期の人たちがうらやましい」と思ったことは、一度もないということです。