また、別の日本人イスラム教徒は、1人の男性が複数の女性を妻にするということは、複数の女性が共同で1人の男性を所有していると言い換えることもできる、と「一夫多妻制」を即座に「女性差別」に結びつける考え方に批判的だ。
もちろん、「一夫多妻」の名の下で、女性への権利侵害やDVなどの問題が起こることもないわけではない。しかし、その原因を一夫多妻の結婚制度に求めても、根本的な解決にはならないのだ。
ここでは「一夫多妻」を取り上げたが、冒頭にも挙げたように「礼拝」や「断食」「禁酒」「女性の服装」など、イスラムには多くの決まりごとや推奨される行いがある。これらを実践することが信仰だとしたら、日本で働き、日本で暮らすことはイスラム教徒にとって困難が多いように思えるだろう。
しかし、本書に登場する性別も国籍も様々なイスラム教徒たちは、それぞれに信仰と実生活のバランスに悩みつつ、しなやかにいきいきと日本の環境に順応して暮らしている。
可能な限りイスラムの教えに忠実であろうとする人もいれば、仕事の必要に応じて戒律を破らざるを得ない人も、「納得できないことも山盛り書いてある」とコーランに対して冷静な目を向ける人もいる。入信の動機も人それぞれだ。
彼らが日本の冠婚葬祭でどう振舞い、接待飲み会にどう対処し、イスラムで禁止されている豚肉の入った学校給食をどうしているか。厳密にはイスラム教徒への偏見を完全に消すことはできないのだろうが、これらの実例に触れることは、イスラムの文化を正確に理解する一助になるのではないだろうか。
現在、日本には約11万人のイスラム教徒がいて、今後もイスラム圏から多くの人が日本にやってくるだろうし、イスラムに入信する日本人も増えてくるだろう。彼らと働いたり、結婚したりということが珍しくなくなってくると考えると、イスラムの考え方や価値観は私たちにとって決して他人事ではないのだ。
(新刊JP編集部)
関連記事
・専門家が語る「対イスラム国」本当の戦況
・「イスラム国」の謎の指導者 バグダーディーとは何者なのか?
・報道されない中国人の本音
・“死刑囚から臓器を摘出し、移植”中国の実情を描いた傑作
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。