自分はチームに恵まれていない。今の組織では、新しいことに挑戦できない――。
『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』(学研プラス刊)は、こうした悩みに向き合いながらも、組織改革を強制するのではなく、仕事の仕組みやメンバーとの関わり方によって、チームが成長しやすい環境を生み出していくためのアプローチ法を説いている。
著者は、組織開発ファシリテーターとして多くの企業や組織のプロジェクトに参画する長尾彰氏。数々のチームビルディングの現場に携わってきた長尾氏だからこそ書ける本質的なテーマと、『宇宙兄弟』の多彩な魅力が詰まった本書をのぞいていこう。
■他社の成功事例を真似しても、チームは変わらない
チームビルディングについて書かれた書籍と聞くと、高度な組織論や名立たる企業の実例に基づく成功法則などを思い浮かべるかもしれない。
もちろんこうした類も有益な情報に違いないが、知れば知るほど、目の前に存在する「現実のチーム」とのギャップを感じたり、「同じことを自分のチームでやってみたのに、なぜうまくいかないのか?」というジレンマに襲われたりしてしまう。
本書はそんな人にこそ開いてほしい一冊だ。
まず第1章で登場する「理想の組織や成功のルールなどない」「チームづくりを目的にしない」という著者の言葉に、いい意味で裏切られる。
これは「うまくいくチームは、仕事の仕組みから生まれる」という前提のもと、仕事の取り組み方そのものを見直すことで、チームが成長しやすい環境を整えていこうというものだ。
そのための「16の条件」や、トップダウンによる「チームビルディングありき」の姿勢が失敗に陥りやすい理由についても述べられている。
■組織論を読みすぎて、がんじがらめのリーダーたち
チームビルディングに興味のある人には聞き馴染みがあるであろう「タックマンモデル」も、本書では「チームの発達段階」を理解するためのフレームワークとして登場する。
チームの発達段階(4つのステージ)についての説明はここでは割愛するが、大きなポイントは、各ステージで成長のために大切なアプローチやメンバーとの関わり方を、わかりやすく3項目でまとめている点だ。
チームビルディングにまつわる組織論やタックマンモデルの概念は理解できていても、実際に取り組んでいくとなるとあまりに選択肢が多く、どこから手をつけていいのかわからなくなってしまうこともある。
逆に権限が限られている場合、人材確保の段階から見直すことは難しい。
だが本書に書かれている内容は、どれも役職や権限に関係なく「今いるメンバー」で実践できるものがほとんどだ。
たとえば、第1ステージでは、「目的を映像で伝える」「目標を数値で伝える」「指標と原則をつくる」の3つを必ずセットで行うことを提案している。
また、チームが第1ステージから第2ステージへと成長するために必要な「心理的安全性」を育むため、お互いのマインドセットを知っておくといった項目は、本を閉じたらすぐにでも取り組めるだろう。
一見シンプルに感じるかもしれないが、「なぜこれが大切なのか/どのような点に注意するとよいか」が丁寧に書かれているため、「まずこの3つから始めてみよう」という著者の提案は、読み手の心にすんなり届く。
「あれもこれも」ではなく、「まずはこの3つ」でいい――。
チームをなんとかしようと孤軍奮闘し、「マネジメント疲れ」に陥ってしまっているリーダーには、ある意味「目からウロコ」の内容だろうし、学び直しや原点に立ち返るきっかけにもなるかもしれない。
■「今いる仲間でうまくいく」ための、4つのリーダーのスタイル
さらに、自分の強みを活かす「4つのリーダーのスタイル」では、読者が自分のタイプを知るための診断チャートも用意されている。
長尾氏が定義した「ファシリテーター型」「マエストロ型」「ティーチャー型」「コンサルタント型」の4つのスタイルごとに、それぞれの強みを活かしたリーダーシップやアプローチのポイントをまとめているのだが、『宇宙兄弟』に登場するキャラクターやエピソードが盛り込まれているので、その特徴が格段にイメージしやすい。もちろん『宇宙兄弟』を知らない読者でも十分に理解できる内容だ。
コラムページでは、前述した「チームの発達段階」のステージごとに、4つのリーダーのスタイル別アプローチがわかるのも面白い。
長尾氏は、「チームワークとは、お互いに違うことを前提に、メンバー全員がその違いや強みを活かしたリーダーシップを発揮できること」だと説いている。
そのためにも、リーダーだけでなく、ぜひメンバー全員で本書の内容を共有してほしい。あなたの強みは誰かの苦手分野をフォローできるだろうし、あなたの苦手なことは、メンバーの誰かが強みを活かして補ってくれる。
「自分はチームに恵まれていない」と嘆くくらいなら、「今いる仲間でうまくいく」ための一歩を踏み出してみよう。その重要なヒントを、本書は教えてくれるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。