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小林敬幸「ビジネスのホント」

だから事業はいつも失敗する!SWOT分析、消費者アンケート…無意味な手法ばかり?

文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者

 漠然とした質問に多数の消費者が答えるニーズなどは、多くの企業がすでに知っている。家事が簡単になる家電、燃費のいい自動車、おしゃれな服がいいに決まっている。また、そこで出てきた少数者の望む多様なニーズをできるだけたくさんひとつの商品に取り入れようとすると、エッジの利いていない商品が出来上がる。かつて、消費者の声を汲み上げたとしてごちゃごちゃと変な機能がついている自動車がさっぱり売れなかったこともある。そのような状況をアップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは、「顧客は自分たちが欲しいものを知らない」と指摘している。

 ではどうするのがいいだろうか。まず、インタビューの答えよりも、実際の消費者行動をよく観察する。そして、サンプル数は少なくていいので、じっくり時間をかけてインタビューする。自分の心がその人の心に共感できるレベルまで持ってこられたらしめたものだ。そうすると、その人が気づいていないけれども、あれば喜ぶようなことも感じ取れる。

 最後に、プランも煮詰まっていよいよ事業化する直前という頃に消費者のニーズと行動について具体的な仮説をもって、その仮説の検証を行うように設計したサンプル数の多い消費者調査を行う。仮説がないのに漠然と大人数にニーズを聞いても、なかなか効果的な調査にはならない。

新規事業のヒントは現場にある

 上記のすべての方法が、まったく無駄というわけではない。作業をしている過程で何かのヒントを得ることもあるだろう。しかし、この方法だけで、新規事業ができると信じ込むのは、非現実的だ。

 これらの方法は、概していえば既存事業の現況を説明するときの方法である。新規事業においても、いったん思いついてプランをつくり上げた後に、新規事業の意義と位置づけを社内や協力者に説明するのには役立つだろう。しかし、この方法に全力を注いでもいいアイデアは出てこない。説明責任を果たせても、結果責任は果たせないのだ。

 結局は、会社の奥の院の机の前に座って頭を巡らしていても新規事業のいいアイデアは、なかなか出てこない。それよりも、顧客や取引先との接点で、自社商品と関係なくても愚痴、不平、不満を聞き出して、一緒になって解決策を考えていると貴重なヒントになることが多い。

 創造的であるためには、多様性を求めなければならない。理論やメディアで伝えられる情報は、抽象化されていて多様ではないし、ほかの人も知っていることである。世の中で最も多様でユニークなのは現実なのだから、現実に日々直面している現場からアイデアを得るのが王道だろう。

 トルコにナスルディンという男が主人公の多くの小話がある。日本の一休さんのとんち話のようなものだ。そのひとつに、次のようなものがある。新規事業を考えている方には、よく聞いてもらいたい小話だ。

――ナスルディンという男が自宅の前で這いつくばって土の上で探し物をしていた。
友人が来て「何をさがしているのだ」と尋ねた。
「カギだよ」とナスルディンは答えた。
そこで友人も膝をついて一緒にカギを探し始めた。なかなかみつからないので、友人は「どこでカギを失くしたか正確に言ってみろ」と聞いた。
「家の中だよ」とナスルディンは答えた。
「それならなぜ外を探しているのだ」
「家のなかよりも、ここのほうが明るくて探しやすいからさ」――
(『H.ミンツバーグ経営論』<ヘンリー・ミンツバーグ/ダイヤモンド社>より)

 実際には結果が出ないとわかっているのに、自分が探しやすいこと、人に説明しやすいことばかりをしていないだろうか。
(文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者)

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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