人によってはロジカルなアプローチに見えるらしいが、実際にこの方法でうまくいった新規事業は聞いたことがない。これは、先進国に追いつけ追い越せのキャッチアップ型の新興国経済での成長戦略である。日本でいうと、戦後すぐの傾斜生産方式は、このアプローチだ。しかし現代の日本のように、先頭集団にいて自分より先を走る人がいない経済では、何が成長産業か正確な予測ができず機能しない。
そもそも、まだ世の中に存在しない新しい分野の成長率など正確にわかるはずがない。さらに、世の中すべての人がそのデータを見ているとすると、競争優位を築きにくい。役所やメディアが騒ぎ出したときには、もう遅いのだ。
コアコンピタンスからの演繹
自社の強み弱みを調べるSWOT分析などによってコアコンピタンス(競合他社に比べて特に秀でた能力)を確定し、そのコアコンピタンスから演繹的に新規事業を導き出そうとする。このやり方では、ユニークなアイデアは出てこない。演繹というのは、情報量は等価であって新しい情報が増えるものではない。新しいアイデアが出てこないのは、論理的に当然のことだ。
新規事業というのは、いったん情報の多様性を広く求めて、それをヒントに考えていくもので、絞り込んでいくのは逆方向になってしまう。さらに、その絞り込んだものを演繹しても新しい情報は出てこない。その意味で「選択と集中」は、新規事業とは対極の発想だ。
そもそも、市場のほうを見ないで自社と競合社の分析だけから新規事業を導こうという発想に無理がある。まずは目を外部に、自社外、業界外に向けるべきである。
もちろん、自社の強み弱みを知っておく必要はあるし、コアコンピタンスを明確にするのは重要だ。よく自覚したうえで、いったんそれを脇に置いて、できるだけ多様に自由にいいビジネスを考えてみて、そのアイデアが自分たちのSWOTにどう位置づけられるか、コアコンピタンスに適合している面があるかを確認していくほうがいい。
消費者ニーズのアンケート調査
自社の都合、供給の論理だけを考えるプロダクトアウトの発想はだめで、需要側のニーズをつかむマーケットインの発想が大切だといわれる。そこで、消費者に対して「どんな商品・サービスがあると便利ですか」「それにはどれくらいお金をかけられますか」と、単純にニーズを聞き多数の意見を汲み取っても、なかなかいい新規事業につながらない。