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小林敬幸「ビジネスのホント」

ヤフーとグーグルが巨額の利益を得る「当たり前すぎる」理由

文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者
ヤフーとグーグルが巨額の利益を得る「当たり前すぎる」理由の画像1「Thinkstock」より

 ビッグデータ、人工知能、遺伝子(DNA)解析など、データを取り扱うさまざまな技術とビジネスが注目を浴びている。

 こうしたビジネスを解説し将来性を予測する本や資料は、一般的にはデータの収集、整理、分析、提供というそれぞれの段階における最新技術と既存プレイヤーの動向を示している。それから、データを取る産業分野の成長性を調べて、データビジネスの可能性を論じることが多い。しかしこのアプローチは、供給側の事情から見た、いかにも“プロダクトアウト”的な発想だ。

 データビジネスからサービス提供を受けるユーザーにとっての価値をまず見にいくのが、ビジネスとしては王道だろう。それはすなわち、ビジネスとして成立するか、どの程度成長するかに直結しているからだ。

ヤフーとグーグルが巨額の利益を得る「当たり前すぎる」理由の画像2『ビジネスをつくる仕事』(小林敬幸/講談社現代新書)

 こうしたデータビジネスが成り立つ要件は、(1)データの更新頻度、(2)ソリューション(解決策)の価値、(3)個別性の3つである。

 ビジネスの収益との関係でいえば、データの更新頻度は販売数量に、ソリューションの価値は販売単価に、個別性は収益率に、それぞれ強く効いてくる。いうまでもないが、「利益=販売数量×販売単価×収益率」である。

 これらすべての要件で満点を取らないとダメとはいわない。ただ、掛け合わせた点が高得点であればあるほど収益性の高いビジネスを組み立てやすい。不足している点があれば、その弱点を埋める方策を考えればいい。

天気予報とDNA解析

 これら3要件を、最古のデータ提供サービスともいえる「天気予報」と最新の「DNA分析」の2つの例を使いながら、順に説明してみよう。

(1)データの更新頻度

 毎日、または数時間ごとに変わるデータは、何度も収集することに意味があり、それだけにユーザーに何度も利用する動機が働く。従って、サービス商品の利用頻度、すなわち販売数量増に結びつく。

 例えば、天気予報は、毎日変わるので毎日見たくなる。逆の極端な例は、個人のDNA解析ビジネスで、これは一生変わらないので、一度調べれば以後調べる必要がない。従って、DNAを調べるだけのサービスで大きな販売数量が出るビジネスにするのは難しい。調べた結果に基づきながら、ほかの検査などで時々刻々と変わる本人の健康状態を調べて対応策を提供しなければならない。

(2)ソリューション(解決策)の価値

 ユーザーにとって大きなメリットがある解決策を提示できるならば、付加価値が高いのでサービスの単価をより高く設定できる。逆に、解決策によって提供できる価値が少なければ安い利用料しかとれないし、多くの場合利用してくれない。

 例えば、胃カメラ、CTスキャナーなどの医療検査サービスは、見つけた病気に治療法があり、早く見つけることで命が助かるので高い単価を払ってもらえる。

 天気予報は、高い価値のソリューションを提供できる。雨が降るときに傘を持っていけばずぶ濡れになるのを避けられるし、台風のときは厳重に備えることができる。天気を変えることはできないので受け身ではあるが、命を救う立派なソリューションではある。従って、このサービスの提供のために気象衛星などに多額の資金が投じられている。

 DNA情報のソリューションは、ほどほどのレベルだ。DNAを変えるというソリューションはないが、なりやすい病気を予測し予防的生活習慣をしたり、予防的摘出手術をしたりできる。しかし、いずれもユーザーにとって苦痛と効用のバランスの悪いソリューションではある。

 現在、商品の販売データ、街の人の流れのデータなどを提供するビジネスがしばしば提案される。しかし、それによってクライアントの販売増につながるソリューションを提供できなければ、大きなビジネスにならない。

(3)個別性

 ユーザーの個人ごと、小さなグループごとにデータが異なり、個別対応して異なるソリューションを提供する。そういうビジネスは高い顧客ロイヤリティを確保でき、競合との過剰な価格競争を避け、結果としてそのビジネスの寿命が長く、かつ収益性の高いビジネスにしやすい。

 天気予報は、個別対応ではないので民間のビジネスとして成立しにくい。その地域一帯数万~数百万人が同じ天気の下にあるので、個別対応とはいい難い。このように、個別ではなく大勢に対応して高いソリューションを提供するものは、民間ビジネスよりも税金による公的サービスとなる。税金を使って気象庁が国民に無償で提供する。従って、民間系天気予報サービスのウェザーニューズは、気象庁と一面競合する消費者向け(B2C)の天気予報よりも、企業向け(B2B)に個々の船の航路アドバイスをするビジネスで高い収益を得ている。

 DNA分析は、これこそ究極の個別対応データである。解析された個人のDNAデータから、その個人にぴったり当てはまる個別の効果的なソリューションを提供できれば、高い収益率を出すことができる。

 例えば、基礎体温データを記録し分析するルナルナなどは、個別対応ができている。また、書籍のEC(電子商取引)などで個人の購買履歴からおすすめを提示するサービスも個別対応といえる。

ヤフーとグーグルが巨額の利益を得る「当たり前すぎる」理由の画像3

 天気予報とDNA解析について、それぞれの3要件への適応度をまとめて表現すると図のようになる。

利益を生むデータ分析、利益を生まないデータ分析

 これらの例を参考に、ほかのデータビジネスについても、3つの要件をどれくらい満たしているかみてみよう。

・検索連動広告:(1)○、(2)○、(3)○

 グーグルやヤフーが行っている検索連動広告は、まずその言葉がどれだけ多く検索されるか、日々変わるデータに基づいたサービスだ。またクライアントにとっては、自社のホームページへのアクセス増、ひいては売り上げ増に直結するソリューションの提案になっている。そして個人にとってもクライアントにとっても、言葉ごとに個別のニーズに対応するサービスである。従って巨額の収益を生み出すビジネスになっている。

・腸内フローラ分析:(1)○、(2)△、(3)○

 4月4日付本連載記事『糞便移植で病気治癒?腸内細菌研究の衝撃 病気・肥満・認知症に多大な影響』でも紹介した「腸内フローラ分析」は、どうだろう。腸内フローラは毎日といわずとも食生活などによって数週間単位で変わっていくので、更新頻度は高い。ソリューションの提供については、健康食品や漢方など有力候補はあるが、今のところ、ビフィズス菌をカプセルにいれて飲む程度のソリューションしか提示できていないようなので、△だといえる。個別性の点では、人それぞれ親子でも大きく違うので、一旦効果が実感できると継続的な顧客を確保しやすいだろう。

 繰り返しになるが、この3つの要件のどれかが欠けているとダメだというわけではない。不足している部分を補う方策を講じ、ポジショニングを変えればよいだろう。あくまで前向きに使う道具として、この仮説を利用していただけるとありがたい。

 いずれにしても、世の中のいろんなデータ分析ビジネスについて、3つの要件をどの程度満たしているか考えてみると、いい頭の体操になるのではないだろうか。
(文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者)

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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