AJSを傘下に迎えた当時のTIS社長・岡本晋氏は「メーカー系の方は、少し『儲ける意識』に欠けるところがある」という言葉を口にしたという。
TISは元々、金融系と関係の深い情報システム会社であり、経営陣にも金融系出身者が多い。
親と子の関係を断たれ、庇護を受けられなくなれば、自らが強くなって生き残るしかない。逆風に立たされたことで、AJS全体の意識は変わっていき、親の看板に頼らないプライドを育んでいったのである。
■立ちはだかる壁に屈しない「仕事へのプライド」
2011年、100億円規模となる旭化成グループの基幹業務システム統合計画「NEXTプロジェクト」が始動する。
最初に着手したのは、グループの事業会社中最大の規模をもつ「旭化成ケミカルズ」のシステム再構築だった。この事業はプロジェクト全体の7割近い予算が費やされる重大なミッションであり、最初にして最大の難関だった。
当時の旭化成情報システム部長は「この難関さえクリアできれば、あとは一気にいける」と思いながら、同時に大きな不安も抱えていた。
そして、その不安は的中する。
予想以上に難航したインターフェースを統一するためのコード体系や管理単位の標準化、慢性的な人手不足、大幅に延びるスケジュール、スケジュール遅延によるAJSの6億円もの赤字……。ついには、誰よりも粘り強くプロジェクトに取り組んできた人間から「もうできません」「無理です」という言葉が漏れはじめる。
しかし、彼らはプロジェクトに立ちはだかる数々の苦難を乗り越え、ついにはプロジェクトを完遂する。
彼らの姿を追ううちに、デール・カーネギーの言葉が思い出される
「世界の大偉業の大半はもはやこれで絶望かと思われた時にも、なお仕事をやり遂げた人々の手によって成し遂げられた」――という言葉だ。
AJSの技術者、経営者がつくりあげたシステムは、世界の大偉業と呼べるものではないかもしれない。しかし、困難な事業に立ち向かい続けた人々は、技術者、経営者の区別なく数々の絶望的な状況に屈せず、仕事を完遂したのだ。
そんなAJSの奮闘の歴史からは、あらゆるビジネスパーソンに必要な「仕事に対するプライド」の在り方が学べるだろう。
(新刊JP編集部/大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。