私たちの生活に欠かせない「衣食住」。そのなかで人生を大きく左右するのは「住」、つまり、不動産だ。
どんな家に住むか、どこに住むかはもちろんだが、資産としての価値も高いので、将来の経済的な面を考えれば、誰しもが一度は真剣に向き合う必要があるものだ。
しかし、関連した仕事をしていなければ、不動産にはわからないことが多い。そこで読んでおきたいのが『不動産格差』(長嶋修著、日本経済新聞出版社刊)だ。
本書は、2014年に出版された『これから3年 不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社刊)に、最新市場動向を踏まえて大幅改定された一冊だ。
これからの不動産市場はどうなるのか?
著者によれば、「下がり続けていく」のだという。
不動産価格を決めるのは「需要」と「供給」だ。日本がこれから本格的な人口減少、少子高齢社会に突入することを考えれば、不動産価格が下がるのは必然だと言える。
そんな長期的な下落状況のなか、現在の不動産市場動向では「三極化」が進んでいる、と著者は述べる。
国内のほとんどの不動産価格は下がり続け、上昇するのはごく一部だというのだ。
三極化の内訳は、「価格維持、あるいは上昇する:10~15%」「徐々に価値を下げ続ける:70%」「無価値、あるいはマイナス価値に向かう:15~20%」だという。
このことは、どのタイミングでどんな場所に、どのような不動産を買うかで、天地ほどの格差が生まれることを意味する。
一見すると、「住宅が安くなるならありがたい」と思うかもしれないが、そう楽観的に構えてもいられない。
たとえば、本書では、「どこに住むか?」のひとつとして、「居住誘導地域」の話が挙げられている。
一時期、「消滅可能性都市」が話題になったが、本格化する人口・世帯減を見越して、各自治体は「人口密度を保つ地域/地価の維持・上昇を目指す地域」と「そうでない地域」とを線引きするようになる。
「居住誘導地域」は、「人口密度の維持を宣言する地域」を指す。
これは、自治体が居住者を誘導したい地域、と言い換えてもいいだろう。だが、自治体が本当に言いたいことは、その逆だ。「この地域以外では、人口密度を維持できません」ということなのである。
自治体はこれから、当然のように人口密度の高い地域への開発や維持に注力していく。すると、「居住誘導地域」から外れた地域のインフラ修繕などは後回しになる。
そうなれば、金融機関も積極的な融資をしてくれなくなるなど、居住者にとってデメリットが大きくなるのだ。
こういった事情を知らずに不動産を購入したり転居先を決めたりすると、目も当てられない事態に陥る。
不動産を、単純に「住むためのもの」と考えている人でも、どこに住むかで行政の支援は変わるし、住宅の種類によってライフスタイルや必要なお金は変わる。また、不動産を将来的に資産運用したいなら、さらに多くの知識や情報が必要になる。
本書は、どちらの人にとっても有益な情報ばかりだ。