電通の新入社員が過労自殺した問題から、もうすぐ2年が過ぎようとしている。この電通の過労自殺問題発覚から、世間でも「長時間労働」に対する関心は高まったが、まだ多くの企業で改善の余地があるようだ。
2017年9月4日、名古屋市に本社を置く「大宝運輸」は、従業員に違法残業をさせていたとして、社名公表が実施された。
労働局の調査では、全体の2割を超える運転手が「過労死ライン」とされる月80時間超の残業をしており、最長で月約197時間という残業があったことも確認されている。
厚生労働省では、「月100時間以上の違法な長時間労働が3事業所」で確認、書類送検された企業の社名を公表してきた。2017年1月からは、公表基準を「80時間超、2事業所」に拡大。「大宝運輸」は、新しい基準が適用されてから全国で初の社名公表となった。
いまだに、人手不足、仕事量の増加、取引先への対応といった理由で、残業が常態化している会社は少なくないはずだ。また、長時間労働や残業を減らすための方策を行っていても、なかなか効果が現れない会社もあるだろう。
2017年2月に「東京商工リサーチ」が1万2,519社にアンケート調査をしたところ、9割の企業が「恒常的に残業がある」「時々残業がある」と回答しており、8割の企業が「残業減少に努める」と回答している。
だが、実際に長時間労働や残業の負担が軽くなったと感じている人はどれほどいるのだろうか?
企業側は「改善に努めている」と言っても、そこで働く人たちがサービス残業で帳尻を合わせている、などということがあるかもしれない。
しかし、長時間労働を見直し、実際に働き方を改革した企業もある。わずか4年で、月平均の残業時間を10時間も減少させたITベンダー企業「SCSK」は、その好例だ。
『当たり前の経営—常識を覆したSCSKのマネジメント』(野田稔著、ダイヤモンド社刊)では、同社がどんな取り組みをしたのかが紹介されている。主な取り組みは次のようなものだ。
・電話1分以内、議事録1枚以内、会議1時間以内を徹底した「1Best運動」
・残業を減らした分だけ、残業代を出す
・「全社一斉有給休暇取得奨励日」制度
注目したいのは、「1Best運動」は、社員それぞれの努力が求められるが、あとの2つの取り組みは会社側の努力が必要だということだ。「全社一斉有給休暇取得奨励日」の実施に際して当時の社長は、システムの運用・保守業務を請け負っている取引先に手紙を送り、社員が休暇をとるための理解を求めたこともあるという。
長時間労働の改善は、社員に多くを強いるよりも、企業側の努力によって進む。一度ブラック企業のレッテルを貼られれば人手不足は加速するだろう。そうなる前に、経営者は労働環境の見直しに真剣に取り組んでほしいものである。
(ライター:大村 佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。