クマとニワトリは数をかぞえ、クジラは韻をふむ歌を作詞作曲し、プレーリードッグは会話をする。動物たちは、考えたり、記憶したり、理解する認知能力があり、豊かな感情をもっている。
たとえば、犬を飼ったことがある人は、吠え方や表情から「今、うちの犬が笑った」と感じた経験をしたことがあるかもしれない。犬が遊び始めたいときに独特のあえぎ方をすることは、科学的に証明されていることなのだ。
こういった動物たちの豊かな能力を紹介するのが、『数をかぞえるクマ サーフィンをするヤギ 動物の知性と感情をめぐる驚くべき物語』(べリンダ・レシオ著、中尾ゆかり訳、NHK出版刊)だ。
本書では、仲間を助けるネズミ、芸術を愛するニワシドリ、葬式をするカササギなど、動物たちが優れた能力を示す、驚くようなエピソードを100点以上の写真とともに紹介している。
■プレーリードッグは人間と同じような生活をしている
人間と同じような生活をしている動物がいる。それが、プレーリードッグである。北アメリカ大陸中西部に在来するウサギくらいの大きさの齧歯類で、地下の入り組んだトンネルに集団で暮らす。
そのトンネルはいくつもの部屋に分かれていて、子ども部屋や寝室、食料貯蔵庫、トイレまであるとか。
口のすぐそばに「リスニングポスト」があって、ご近所から出される警戒の鳴き声を聞いたり、捕食者を見つけたら警報を出したりする。
また、いくつかの家族が集まってウォードという「区」をつくり、区がいくつか集まってコロニーと呼ばれる「町」をつくっている。
なるほど、これだけでも意外だと思えることばかりだが、驚くべきことがさらにある。プレーリードッグは「会話」もするというのだ。
プレーリードッグの一種、ガニソン・プレーリードッグを30年以上研究してきた生物学者のコン・スロボチコフ博士によれば、プレーリードッグが捕食者を見つけると危険を知らせる鳴き声で叫ぶことに気づく。この声を仲間が聞きつけて繰り返し、緊急放送のようにコロニー中にくまなく警報が伝えられるのだという。
ただ、警報を聞いたプレーリードッグは、急いで巣穴に引っ込むこともあれば、外の広い場所で立ち止まるだけで動かずに立ったまま、どうしようか考えていらしいときもある。いつも同じ対応をするわけではなかったのだ。
そこでスロボチコフ博士は、コヨーテ、犬、人間などの捕食者がコロニーを通り過ぎたときに、危険を知らせる鳴き声を録音して分析。その結果、プレーリードッグは、いろいろな鳴き方をして、どの捕食者なのかを特定していた。さらに、人間が着ているTシャツの色が変わると、鳴き声もそれに合わせて変わっていた。
■名詞、形容詞、動詞と副詞まで…プレーリードッグのすごさ
さらに研究を進めると、プレーリードッグのコミュニケーションには複雑な構造があり、品詞の機能ももっているようだという。
スロボチコフ博士は、これまでにプレーリードッグが危険を知らせるときに使う単語を100語以上読み解いている。
「人間」「コヨーテ」といった名詞、「黄色い」「青い」「大きい」「小さい」という形容詞、「速く走る」「ゆっくり歩く」という動詞と副詞を組み合わせたような鳴き声もあることがわかった。驚くほどくわしい情報を伝えていたということだ。
また、プレーリードッグだけでなく、科学技術の進歩のおかげで鳴き声を解釈できる動物は、ニワトリ、テナガザル、パンダ、オウムなどがいる。
プレーリードッグの暮らしぶりを知ると親近感すらわいてくる。本書に登場する動物たちの能力や新たな一面を知ると、もっと近い存在に感じるかもしれない。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。