例えば、外国語の学習で「読む力」は、「書く」「聞く」「話す」力が超えることはない。読んで理解できないことは書けないし、話せないし、聞いてもわからない。アクティブ・ラーニングの基礎として「読む力」というある種の「型」を覚えないと、伸びるものも伸びないのだ。
教育現場や親が「能動性」だけに目を奪われると基礎学力の指導が疎かになる可能性がある。新たな制度に翻弄されず、段階的に能力を培っていく。その見極めを教育現場や親が担っていることを忘れてはいけないだろう。
■子育てとは「自立」という、究極のゴールに導くこと
言うまでもないが大学受験はゴールではなく、社会に出るための一つの過程に過ぎない。本書後半では、そのための大学の選び方・学び方から、子どもの学力の伸ばし方や教育格差、また昨今話題のAI時代の教育、そして子育ての目標である「自立」について、と幅広い議論が交わされている。
それらはどれも、「これからの時代の変化に通用する学びと子育て」という観点に貫かれている。
たとえば大学選びには「偏差値が高い難関大学に進学することが幸せにつながるという考え方は根本的に間違っている」と佐藤氏は喝破。また教育格差の中の学校選び、奨学金の問題にも触れる。
AI時代だからこそ安易にデバイスに子守りさせるな、と断じ、子どもの自立を考える章では、佐藤氏と井戸氏のかけあいで、女性の自活、性教育、情報や悪意との付き合い方、発達障害、など現代的な問題がつぎつぎとテンポよく、しかも子や親の不安に寄り添いながら、整理されていく。
大学受験改革を入り口にしながら、教育改革によって求められる能力の変化、義務教育における学力向上のポイント、学力以外で子供に身につけさせるべき事柄など、が広く語られるこの本だが、最終的には教育と子育ての大きな目標の実践について論じる、スケールの大きな一冊になっている。
現在の学生が社会に出れば、グローバル化する社会、深刻化する格差社会、AI社会の到来などに立ち向かわなければならない。そんな時代をサバイバルする力を身につけさせるのも、この時代に子どもを育てる親の責務と言えるだろう。本書はそんな親世代の確かな一助になるはずだ。(ライター/大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。