歴史に名を残した武将も、私たちと同じ人間。これさえなければ歴史が変わっていたかもしれない…そんな「失敗」を犯している。
そんな歴史上の人物の「失敗」に注目したのが『「失敗」の日本史』(本郷和人著、中央公論新社刊)だ。
本書では、歴史上の「失敗」をその時代の特徴を分析しながら考察。そして、もしその失敗がなかったら、歴史はこう変わっていただろうという「IF」まで推測する興味深い一冊だ。
上杉謙信がもし健康に気を使っていたら…
「健康に気を使うことを怠る」という失敗をしたのが、「軍神」とも呼ばれた上杉謙信だ。戦争が得意とされ、8000人の軍勢を率いて各地を転戦。戦って負けなしと言われた武将である。ライバルだった武田信玄に塩を送ったという逸話から「敵に塩を送る」という古語も有名だ。
関東の平定が目的だったと見なされる作戦のため、謙信は、自分の部下、領地、そして自分を支持する勢力に大動員命令を出して、軍勢を編成。軍事行動を起こそうとしたときに、トイレで倒れて急死する。
謙信は糖尿病を患っており、甘酒のような甘い酒をぐいぐい飲み、亡くなる前はげっそりと痩せていたという。そこまで体に変化があったのだから、生活態度を改めるべきだったが、それを怠ってしまったのだ。
また、もしものことがあった際を想定して、遺された人たちのためにきちんと後継者を定めておくべきだった。ところが、それをしなかったため、後継者争いが起きて、領地が大幅に減ってしまった。これも謙信の失敗のひとつだ。
戦国武将として非常に重要な責務を怠ったがために、自身の身体も後継者問題もうまくいかなかったのだ。
家の存続に失敗した豊臣秀吉
家の存続に失敗しているのは謙信だけではない。かの天下人、豊臣秀吉も失敗している。
一時は後継者に据えていた姉の子である豊臣秀次を彼の一族まとめて殺してしまう。それは高齢になっていた秀吉に、秀頼という新たな後継者が生まれたからだ。将来の禍根を断つために皆殺しにしたが、その結果、豊臣家の血を引く人が秀頼だけになってしまう。
秀吉は、次にどういう時代がくるのかということが見えていなかった。それが大きな失敗だったのかもしれない。
武将たちの失敗を考察すると、歴史上の遠い人物の人間性やそこにある物語が見えてくる。歴史上の人物たちの失敗は、歴史の意外な一面を見せてくれるはずだ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。