2020年と21年は新型コロナウイルスの世界的大流行の影響が大きく、さまざまな分野で激動の2年間となった。なかでも、コロナ禍真っ只中で初めて社会へ出た新卒社員たちは、社会情勢も自身を取り巻く環境も日々目まぐるしく変化していき、適応するだけで精一杯だったという人も少なくないだろう。
1年で大きく変わる、コロナ禍の新人研修
パンデミックの最中に社会に放たれた「コロナ禍新卒社員」について、パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員の金本麻里氏は「20年入社と21年入社では、スタートダッシュの切り方に違いがある」と話す。
「20年の新入社員たちは、入社した途端に1回目の緊急事態宣言が発令されました。初めての出来事で企業も対応に追われていましたから、何もできずに『ひとまず自宅待機』と命じられ、オンラインでの研修すら後手に回されてしまったケースも多かったと思います」(金本氏)
金本氏いわく、企業の新人研修のプログラムはおよそ半年前からつくられ始めるという。20年度であれば19年の秋頃から動き始めていたわけだが、当時はまだコロナ流行前だったため、各企業は当然、例年通りのスタイルの研修を計画していたと思われる。
ところが、20年3月頃から日本でも感染拡大が始まり、研修計画の修正もできないまま4月を迎えた。未曾有の事態では、研修の中止や延期もやむを得なかった。
「21年度の計画を立てるときはすでにウィズコロナ時代が始まっていたため、企業側も状況を踏まえた上でオンラインも取り入れた研修内容を考えていたと思います。今年は計画通りにオンボーディングを実施できた会社がほとんどだったのではないでしょうか」(同)
20年はウェブ会議システムが急速に普及し、今ではすっかり定着している。そこで広まったオンラインでのビジネス活動は、会社の研修や行事にまで及んでいる。
「ツールの使い方を誰もが心得てきた21年は、オンラインでの懇親会や歓迎会を開催した企業も多いと聞きました」(同)
新入社員たちに共通する「悩み」とは
同じ「コロナ禍の新入社員」と言えど、元年世代と2年目世代では、初動の差が大きい。社会人生活が手探りで始まり、一時期は何も動けなかった20年度入社の社員。彼らと比べると、オンラインでも入社後すぐに先輩社員たちと交流を持てた21年度の新入社員たちのほうが、満足度の高い社会人生活を送れているように思える。しかし、コロナ禍世代の若手が抱えている悩みは共通しているという。
「入った時期も最初の一歩の踏み出し方も違う2つの世代の社員たちですが、『社内でのコミュニケーション』には両者とも従来よりも苦戦しているのではと思います。『オンラインでは意思疎通が難しい』『上司の顔が覚えられない』という声は多く耳にしました」(同)
現在、どこの企業も組織を挙げて感染症対策に取り組みながら、業務を行っている。全社員が在宅勤務をしたり、出社しても社員間の会話を必要最小限に抑えたりしている場合も多く、こうした環境では新入社員が上司や先輩社員たちの人となりを知ることはできない。深い信頼関係を築こうとしても、かなりハードルが高いだろう。
「ランチや仕事終わりの飲み会も開かれなくなりましたし、上司が取引先を訪問する際に同行し、行き来の時間に会話をするといった機会も激減しました。新人が職場に馴染みやすくなるきっかけが失われており、関係構築に苦労しているようです」(同)
若手社員らがそうした悩みに直面している事実は、当然、上司たちも理解している。そこで、新人が疑問点や意見を共有できる社内用ウェブツールをつくり、コミュニケーションの活性化に努めている企業もあるそうだ。だが、環境だけが整っていても、打ち解けていない上司に質問をするのは気が引けてしまうようで、うまく機能していないという声もある。
上司側から新入社員へ積極的な声かけを
この状況を打開するため、上司側からできるアプローチはあるのだろうか。
「『私はあなたを気にかけています』という姿勢をアピールすることが重要です。たとえば、オンライン会議の後に『さっきの振り返りをやろうか』と上司から個別で対話を持ちかけると、ミーティング時に浮かんだ疑問もすぐに解消できるようになると思います。ほかにも、後輩がリラックスして仕事について話せる場を定期的に用意してあげるのも良いでしょう」(同)
「受け入れ体制が整っている」と行動で示せば、後輩も本音をこぼしやすくなる。上司も部下も互いが肩の力を抜き、気兼ねせず発言できるような場がつくれるとベストだ。意識して、余談ができる時間を設けてみるのが良さそうだ。
「コロナ禍ではとりわけ、部下に寄り添う『サーバント・リーダーシップ』の考え方を持つと良いと思います。このときに重要なのは『観察』と『傾聴』です。新人の困り事が業務内容なのか、それとも職場の人間関係なのかを観察して見極めた上で、相手の立場になりながら傾聴するようにしましょう」(同)
中高年世代は、ただでさえ若手社員の気持ちがわからない。リモートワークが主流となり、直接顔を合わせる機会が減った今はなおさらだ。そのため、今まで以上に相手の側へ近づき、耳を傾けるべきだという。
「その人に近づくとはいっても、プライベートな話に踏み込むのはNGです。引き出すのは、あくまで業務上の悩みや相談に留めてください。もし仕事以外の話がしたければ、上司から話をして、それに部下も乗ってくるようであれば続けてもいいですが、そうでない場合は無理に聞くのはやめましょう」(同)
テレワークでは自宅で仕事をしている社員も多く、オンオフの切り替えが難しい。そのため、オンラインで仕事中に仲間とプライベートな話をするなど、その境界がより曖昧になってしまう恐れがある。
「しかし、なかには『上司とプライベートの話ができると安心する』という人もいます。当たり前ですが、新人も十人十色、それぞれの考えがあるので、個人に合ったコミュニケーションを心がけてください」(同)
新入社員との付き合い方のベストアンサーは、目の前にいる若手社員本人を観察、傾聴することでしか得られない、と金本さんは力説する。
ニューノーマル時代でも、人と人が関わるときの基本は変わらない。変化の激しい時代だからこそ、相手の立場で物事を考えながらコミュニケーションを取るという基本に立ち返るのが、気持ち良い人間関係を築くコツといえよう。
(文=鶉野珠子/清談社)