2019年5月1日、即位に伴う一連の儀式を経て、皇太子殿下が新しい天皇に即位されました。
天皇陛下のお人柄については、すでに知られたところ。いつも穏やかで、周囲に対して思いやりを持ち、気配りを欠かさないご性格は、まさに私たちにとっての模範です。
陛下のご学友が執筆した『陛下、今日は何を話しましょう』(すばる舎刊)は、陛下のあまり知られていない学生時代のエピソードを、当時留学生として来日していたオーストラリア人のアンドルー・B・アークリー氏が書きつづった一冊。
若い頃を共に過ごしたアンドルー氏だからこそ知る、陛下の横顔を覗くことができます。
■天皇陛下の学生時代のニックネームは「じぃ」
アンドルー氏が留学生として来日したのは1975年1月のこと。最初の3ヶ月は日本語を学び、4月から学習院高等科へ通学するというスケジュールで、同じ年に学習院高等科に進学されたのが天皇陛下でした。
陛下と同じクラブに入部したアンドルー氏はまわりのご学友や先生たちにならい、天皇陛下を「宮さま」と呼んでいたが、実はもっと素敵な呼び名があったことを本書で明かします。 その秘密のニックネームが「じぃ」です。
実際、アンドルー氏が初めて天皇陛下に出会った頃、ご自身がニコニコしながら「マイ・ネーム・イズ・“じぃ”」とおっしゃったそう。
実は「じぃ」は中等科時代からのニックネームで、留学生であるアンドルー氏に対しても「宮さまじゃなくて、“じぃ”と呼んでもいいよ」と声をかけてくださったのです。ただ、アンドルー氏は「馴れ馴れしいのではないか」と心配し、「じぃ」と呼ぶことはできなかったと回顧します。
■「じぃ」というニックネームは「本当に好きだったんですよ」
さて、この「じぃ」というニックネームはどのようにして生まれたのでしょうか?
アンドルー氏がその由来を知ったのは大人になったから。たまたま天皇陛下にお会いする機会あり、そのときに陛下が思いついたようにこうおっしゃったそうです。
「アンドルー君は、中等科の頃のニックネームだから知らないと思いますがね。学習院中等科のバレーボールコートの近くにとてもきれいな植木や盆栽がありました。ちょうどみんなでそこを通りかかったとき、僕が『なかなかいい枝ぶりですね』と言ったものだから、誰かが、『お年寄りの趣味ですね。宮さまを“じぃ”とお呼びしましょう』と言ったのが“じぃ”の由来です。少年らしい話なんですけど。本当にこの“じぃ”というニックネームは好きだったんですよ」(本書p.4-p.5より引用)
陛下が好きだったという「じぃ」というニックネーム。アンドルー氏は、その名前で陛下を呼ばなかったことに少し後悔しているといいます。
それは、少年ながら陛下の心の中に、ご自分はやがて「殿下」や「陛下」という呼ばれ方をするだろう、「じぃ」と砕けた呼ばれ方が許されるのも今のうちだけ、という思いがあったかもしれないと、陛下の思いを察しているからです。
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学習院高等科時代、大学時代、アンドルー氏は陛下と親しくお付き合いされていたようで、本書には陛下の懐の深さ、お人柄を感じられるエピソードが数多くつづられています。
たとえば、アンドルー氏がお酒で失敗したときも、陛下はそのエピソードを、ユーモアを交えて笑い話に変えられたそうで、「そうやってからかってくださることが親密な証として感じられ、ちょっとうれしかったことを覚えています」(p.101より引用)と回想します。
外国人の目を通して見た陛下の素顔や優しさに、読んでいけばいくほど、陛下が私たち日本人にとっての誇りに思えてくるでしょう。陛下の存在がより身近に感じられる一冊です。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。