2012年9月11日、日本政府が尖閣諸島の一部である魚釣島、北小島、南小島の3島を国有化したことへの反発から、中国で大規模な反日運動が続いていることは、これまでの報道で多くの方がご存じだろう。
尖閣諸島に関して、中国側は海底油田の可能性が知られるようになった1970年代になってはじめて、その領有権を主張し始めたことがよく知られているが、フォト ジャーナリストの山本皓一氏は、著書『日本の国境を直視する1 尖閣諸島』(KKベストセラーズ/刊)の中で、尖閣諸島は中国の領土戦略の一部にすぎないとしている。
その例として挙げられるのが、古くから数々の国が領有権を主張してきた南沙諸島(なんさしょとう)だ。
1991年、フィリピンのピナトゥボ火山の噴火により、大きな被害を被ったアメリカのクラーク空軍基地は撤退せざるを得ない状況に追い込まれ、基地はフィリピンに返還された。米軍という目の上のタンコブがなくなった中国は、ここぞとばかりにフィリピン近海の南沙諸島を武力制圧し、実行支配を開始してしまったのだ。
それだけではない。
南沙諸島を制圧した中国は、今度はロシアとの国境にある珍宝島を巡って争い、これも奪取。尖閣諸島へのアプローチは、我々日本人からするとかなり強引なものに映るが、中国はそれとは比較にならないほど強引な手口で、南沙諸島と珍宝島を手に入れようとしてきたのである。
山本氏は、このような中国の領土拡大戦略の目的を「実質的な領土拡大のみでなく、これらを含む海域の制覇」だとしている。だとするならば、中国によって狙われる“日本の領土”は、尖閣諸島だけにとどまらないだろう。
●あまりに無防備な「日本最西端の島」
日本最西端の島として知られる与那国島は、台湾と111キロしか離れていない、まさに国境の島である。軍を持つ国であれば国境警備軍が常駐していてもおかしくない場所にあるのだが、与那国島にはたった1人の自衛官すら存在していないのだ。
山本氏は、この与那国島が中国、または台湾に乗っ取られることを危惧する。それは、上記のような警備の甘さだけが原因ではなく、この島の現状も大きな要因となっている。
かつては12,000人を数えたこの与那国島の人口は減り続け、平成24年8月31日時点でわずか1578人。産業の行き詰まりや、島内に高校がないために、子どもが高校に進学するタイミングで仕送りをする余裕のない家庭が離島してしまうことが原因とされているが、この状況も国土領有において不利に働く可能性があるのだ。
国家を構成する重要な要素のひとつに、その土地に居住する自国民の存在と経済的な生活を営んでいる事実が挙げられる。山本氏はそれを引き合いに、大げさな話としながらも、島民の数がゼロに近づくということは、国境の島であることの存在理由を自ら放棄していることだと指摘している。
小泉政権時代に持ち上がった石垣島との町村合併構想が、島民によって否決され、自立を余儀なくされたこともあり、将来、外国人に参政権が付与された場合、中国人や台湾人の集団移住によって合法的に乗っ取られる可能性もあるのである。
本書は、尖閣諸島、南鳥島、沖ノ鳥島、与那国島など、日本人が守るべき国境の島々について、その歴史と今、領土を守るために日本政府や我々は何をすべきかについて、120点に及ぶ写真を交えて解説している。
これほどまで国境への関心が高まったことが、これまでにあっただろうか。自国の領土を守るために、また領土に関する日本政府の対応を評価するために、本書でつづられている内容は必須知識となるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。
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