–女性社員に対する制度の拡充は、一方で男性社員からの反発も招いてしまうのではないでしょうか?
川崎 確かに中には「なぜ女性だけ……」と思ってしまう男性社員もいるかもしれませんね(笑)。
–その対策は?
川崎 弊社では外部から顧問を招聘しており、ダイバーシティ委員会も担当していただいているのですが、よく「甘やかしちゃダメ」と言われています。時短勤務だからといって、仕事を残したまま15時に帰るアルバイトのような意識ではいけない。制度にあぐらをかかないという意識を浸透させていかないと、周囲から不公平感や反発が強くなってしまう。同委員会としてまずはママ社員を集め、月1回の定例ミーティングで意識を変えることから始めました。
–しかし、子供が急に熱を出してしまったり、子育てにはトラブルがつきものです。
川崎 看護休暇や学校行事、病院に行くための半休などの制度を整えています。ただし、これらを使う際も使う側の意識の問題が大切です。この日にどこまで仕事をするか、できない分はどのように処理をするのか。制度を利用するという権利の主張だけでは、いい結果は生まれません。
–川崎さん自身も2児の母として会社に在籍されていますね。どのような意識で、仕事と家庭を両立させているのでしょうか?
川崎 育児も仕事も、どちらも大変なのですが、それが言い訳にならないように気をつけています。仕事に対して家庭を言い訳にしてもいけないし、家庭に対して仕事を言い訳にしてもいけない。もちろん、完全にできない部分もあります。「ここの部分では甘えるから、ここの部分では頑張る」というメリハリをつけるよう努力しています。
●制度に余白をつくる
–ママ社員を支援する制度をつくる上で、注意しなければならないことはなんでしょうか?
川崎 それぞれ家庭の事情や考え方も違いますので、制度をつくる際に取締役から「あまり固めすぎないほうがいい」と助言をもらいました。ガチガチに固めてしまうと、そこに当てはまらない人を振り落とすことになってしまいかねないので、「原則的に」「ケースバイケースで」といった具合に、余白を残すように気をつけています。
–他の会社の制度を参考にすることはありますか?
川崎 DACでは2012年、13年と、北欧へダイバーシティの企業視察研修に社員を派遣してきました。ある広告会社には「フリーダムフライデー」という制度がありました。毎週金曜日は勤務日だけども会社に行かず、どこでどのように仕事をしてもいいという制度です。弊社でも、今年12月から一部の部署でテスト的に導入を始めています。
–ダイバーシティ=北欧というイメージが強いですが、やはり、北欧の制度は先進的なのでしょうか?
川崎 例えば、育児給付金が多いといった制度上有利な部分はありますが、そこまで大きく変わるものではありません。それよりも、北欧は日本と比べて、女性自身が「女性は外で働いて当然」という意識が強いのではないかと思います。北欧では男性の育休も当たり前なのですが、それは女性が働く意識が強いからなんです。子供が生まれ、育休を取得しようという時に、男女フィフティ・フィフティで考え、しっかりと女性が「私はこういう働き方がしたい」「私の仕事にはこういう責任がある」と主張することで、男性が育児休暇を取得するようになっているのだと感じました。
–ダイバーシティを推進していくため、今後の課題を教えてください。
川崎 まだまだ「ダイバーシティ委員会でやっている」「役員が経営戦略としてやっている」と他人事に感じている社員が多いのが現状です。今後は、ダイバーシティを全社員で取り組むものと理解してもらわなければならないと考えています。弊社には現在、外国籍の社員も在籍していますし、今後は障害者や高齢者などより多様な人材が入社してくるかもしれません。そのような人々をしっかりと受け入れるためにも、まずは女性が結婚・出産で自分のキャリアをあきらめずに働き続けられる会社、そしてそうした社員の意欲や働き方を受け入れられる職場を目指さなければならないと思います。
(構成=萩原雄太/ライター)