株式上場は経営者にとって最大の目標の一つだろう。上場すれば企業の価値が飛躍的に高まり、ビジネスの幅は広がる。社会的な信頼が増し、資金繰りもしやすくなる。
しかし、「株式上場は“ゴール”ではなく、新たな“スタート”」である。そう語るのは、バリューコマース株式会社特別顧問の飯塚洋一氏だ。飯塚氏は慶應義塾大学卒業後、住友商事を経て、関連会社のJSAT株式会社に転籍し、CFO、副社長を歴任。その後、2011年にヤフーグループのバリューコマース株式会社代表取締役社長に就任し、現在は特別顧問を務めている。
飯塚氏は長年、株式上場やIR(インベスター・リレーションズ)の現場に携わってきた。その経験から、上場後の経営者の責任の重さを説き、自社の状況を投資家などに説明するためのIRの重要性を示す。『投資家と経営者をつなぐ実践的IR戦略』(ダイヤモンド社/刊)は、「世の中でIRという言葉の重要性が叫ばれている割には専門書が少ない」ということを憂えた飯塚氏が「少しでも困っている経営者の助けになれば」と執筆した、いわば“IRの教科書”だ。
■「IR」の本来の目的とは?
そもそも「IR」とは一体何のためにあるのか? 飯塚氏は、「会社の定款(事業内容)ならびに経営方針に賛同してくださる株主に投資していただくこと」、そして「その株主の方々に、企業としての成長や利益還元によって貢献すること」がIRの最終目的であると考えているという。
投資家の期待を裏切らないためにも、明確な経営方針と事業内容、その事業によっていつまでにどれだけの経営目標を達成させるのか、もし目標を達成させるために克服すべきことがあったら、それは何か。立ちはだかるリスクとは。そういったことを投資家に伝え、節目ごとに経過報告し、利益を還元する。これがIRの本来の目的だ。
■経営は「IR」活動の強化で改善される?
飯塚氏によれば、株式上場を果たしてみると、「業績は悪くないのに、時価総額がまったく上がらない」「画期的な事業を立ち上げ、野心的な事業目標を掲げているのに、市場はまったく反応してくれない」といった経験をする経営者は少なくないという。
ここに飯塚氏は「企業のIRに対する努力不足」を指摘する。投資家は企業にとってのステークホルダー。そのステークホルダーの利益に対する責任を負っている以上、経営者は自社の企業価値が株式市場において正当に評価され、適正な時価総額が維持されるようにならなければいけないと述べるのだ。