なぜあの製品は、標準の1.4倍の価格でもヒットしたのか?価格競争から脱出する方法
●バリュープロポジション=お客様が買う理由
以下は、筆者が1年半前に上梓した『「戦略力」が身につく方法』(PHPビジネス新書)で紹介した事例だ(出典:「ハーバード・ビジネス・レビュー」<ダイヤモンド社/2006年10月号>掲載論文『バリュー・プロポジションへの共感を促す–法人営業は提案力で決まる』<ジェームズ・C・アンダーソン他>)。
ある樹脂メーカーが、取引先である塗料メーカー向けに新しい化学樹脂を開発した。「環境に優しい塗料が必要」と想定して環境性能に優れた樹脂を新開発し、その樹脂を使った塗料を発売したのだが、取引先の顧客(=最終消費者)である塗装業者の反応は冷ややかで、売れなかった。
そこで樹脂メーカーは、最終消費者である塗装業者を調査したところ、意外なことがわかった。当初想定していた環境性能の優先順位は、塗装業者にとって高くないこと。一方で塗装コストのほとんどは人件費で、実際の塗料コストは全体のわずか15%だったのだ。
そこで樹脂メーカーは、バリュープロポジション(「顧客が買う理由」)を見直した。塗料に用いると、乾燥時間が短くなる化学樹脂を発売したのだ。標準の1.4倍の価格にもかかわらず、塗料メーカーに飛ぶように売れた。乾燥時間の短縮によって塗装業者の生産性が向上し、人件費の削減につながったからだ。これが最終消費者である塗装業者にとって、何よりも強いバリュープロポジションだったのである。
消費者相手の商売では、最終消費者を理解する必要性は言うまでもないだろう。そして「最終消費者が何に対してお金を払うか」を理解することは、素材メーカーや問屋販売のように、直接最終消費者と接することがない業態であっても、まったく同様に重要なのである。むしろ最終消費者と接しないからこそ、最終消費者を理解することが大きな差別化ポイントになり得るのだ。
(文=永井孝尚/ウォンツアンドバリュー永井代表)