縮小する国内家電業界で、海外メーカーが続々参入し躍進する理由 日本企業が失った「力」
白物家電市場という需要が安定したマーケットで、エレクトロラックスは「静音技術」という強みを生かし、「どんな時でも気兼ねせずに掃除ができる」という新たな価値を提供している。ダイソンは世界で唯一吸引力の落ちないという独自の「サイクロン技術」という強みを生かして、屋内アレルギー最大の原因であるハウスダストを確実に取り除くという新たな価値を提供している。アイロボットは「自動ロボット技術」という強みを生かして、「スイッチポンでキレイな床にしてくれる」という新たな価値を提供している。
そして3社とも、新たな価値を提供することで新たな顧客を生み出し、市場を創造して成長している。自社の技術面の強みを見極め、顧客自身も気がつかないニーズを掘り起こし、強みとニーズを結びつけて応え続けることにより、たとえ成熟市場であっても価格競争に陥らず、差別化を続けることができるのだ。
市場全体のコモディティ化はチャンスである
一方で日本の家電メーカーは、確かに優れた技術を数多く持っているが、上記3社が有するこうした力を持っているだろうか。
かつての高度成長期、数多くの日本の家電メーカーが持っていたこの力は、バブル崩壊後25年間を経て、現代では失われているようにみえる。ともすると先進技術が主役になってしまっており、顧客が「ぜひ買いたい」と思えるようなニーズ先取り・市場創造型の商品が存在しないのだ。
見方を変えると、市場全体が成熟してコモディティ化しているということは、多くのライバルが価値を訴求できていないことの裏返しでもある。価値を創造し一歩先んずるチャンスでもあるのだ。この状況を打開するカギが、本連載で提唱し続けている「ニーズ断捨離」を通じて「顧客が買う理由を考え抜く」ことなのだ。
このことは、黒船家電メーカーが、少子高齢化により全体が縮小している日本市場にこぞって進出してくる理由とも深い関連がある。彼らならではの、したたかな戦略があるからだ。
14年4月1日付東洋経済オンライン記事『自動掃除機で独走状態、「ルンバ」強さの秘密』http://toyokeizai.net/articles/-/32358で、アイロボットCEOであるコリン・アングル氏の言葉が紹介されている。
「アングル氏は、『日本の顧客を幸せにできれば、世界中の顧客を幸せにすることができる』と言う。開発テストでは、畳の上をはだしで歩いて、細かい粒状のゴミが感じられないかをチェックした」(同記事より)
最も厳しい消費者がいるコモディティ化した国内市場は、実はグローバル展開を見据えて商品を磨き上げるための魅力的な市場でもある。市場が成熟し、コモディティ化していることは、ビジネス不振の理由ではなく、むしろ新たな価値を創造する大きなチャンスと捉えるべきなのかもしれない。
(文=永井孝尚/ウォンツアンドバリュー永井代表)