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日本の常識はドイツの非常識 第3回

「9歳で将来が決まる」「非大卒は出世できない」は当然?

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ドイツには階級社会の名残が残る。
(DVD『山猫』<紀伊國屋書店>より)
ドイツ在住のジャーナリストで翻訳家・金井ライコが、異国の地で自ら体験した失敗や感動を交え、両国の仕事にまつわる"常識"の違いを検証。ビジネスパーソン必読の、"実践的"処世術である。GDPベースで世界3位(日本)、4位(ドイツ)と仲良く並び、経済規模も近い両国だが、仕事における慣習には大きな違いがある模様だ。

「あなた、昨日、工場で働く人たちと飲んだでしょ。そんなことするものじゃないわ!」

 出社早々、不機嫌そうな表情を浮かべた上司からの叱責に、面食らうとともに困惑した。確かに、昨日は仕事が終わってから、工場で働くフォークリフト運転手たち数人と、酒場に繰り出したのは事実だった。しかし、どうしてここまで怒られる必要があるのだろうか? 上司を誘わなかったことに、へそを曲げているのだろうか?

 頭の中で思惑を巡らす私に、上司は厳しく言った。

「あなたは大学に行った立派なエリート。階級の違う工場の労働者と一緒に飲むことはやめなさい。住む世界が違うのよ」

 愕(がく)然として、言葉が出なかった。学歴偏重がいわれる日本でも、ここまであからさまな差別はないし、ましてや大っぴらに言う人はいない。労働者保護では先進的なドイツだが、その一方では、こうした「階級」によって選別する明らかな「格差社会」が存在している。私は大きなショックを受けたのだった。

勝ち取った特権を大切にする社会

 ドイツは中世からの貴族社会の流れを受け継ぎ、出生や学歴による格差がはっきりと存在する。特に学歴は、日本のように誰しもが大学へ進学することはない。ほとんどが国立で、限られた数しかない大学に進むには、小さな時から厳しい試験をくぐり抜ける必要がある。それだけに、勝ち取った特権を大切にするのだ。

 大学への関門は、まず小学校卒業時までに決まる。成績によって、大学を目指す権利のある学校へ進めるか、職業的な専門知識を身につける専門学校を目指す学校へ進むのか、はたまた職人をめざす学校になるかは、担任教師が決めるのである。もちろん親の意見を聞く場もあるが、そもそも学力次第で行ける学校が決まるのだから、教師の意見のほうが強い。小学校は4年制なので、わずか9歳の頃に将来の進路が決まってしまう厳しい現実が存在する。さらに、高校卒業時には受験回数の制限された試験があって、この試験に通らなければ、大学進学は夢と終わる。

 一方で、大学へ進んでも厳しい制約が待ちかまえている。例えば、日本の大学生は、花屋やパン屋で気軽にアルバイトする人もいるだろう。しかし、ドイツでは花屋でアルバイトするのは花屋の専門学校に行った人だけ、パン屋で働けるのもパン職人の修行をしている人だけだ。さらに、同じ試験に3度落ちると、その時点で所属する学部に留まることはできない。これは、大学に限らず職人などの卒業試験や国家試験も同じで、3回落ちると農家にも花屋にも弁護士にもなれない。例えば大学の法学部を卒業するためには、国家試験を通らなければならない。これに3度不合格となってしまえば、弁護士資格はおろか、卒業もできなくなってしまい、また一から別の道を探すことになる。