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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第8回

生涯賃金で約3億の差を生むのに、就活塾ビジネスはなぜ大きくならない?

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「Thinkstock」より
 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

 もし若者をターゲットに予備校と就活塾のどちらかを新規ビジネスとして始めるならば、どちらがビジネスとして有望だろうか? 既存の強い競争相手がウヨウヨしている予備校市場に今から参入するよりも、まだ戦う相手が少ない就活塾を新規に開業したほうが、新規ビジネスが成功する可能性は高いのでは?

 普通はそう考えるところだが、実は就活塾という領域はなかなか事業化が難しい。私の本業は新規事業立ち上げのコンサルティングである。そしてこの就活塾というアイデアは、新規事業アイデアとしては、非常に多くの起業家が挑戦しようとしている分野でもある。

 一見、ビジネスチャンスが大きそうなこの領域がなぜ難しいのか? この謎を、今回のコラムのテーマとして取り上げてみたい。

 なぜ就活塾を起業するのが難しいのか? 先に答えを言ってしまうと、この領域はベンチャー起業家よりも、大資本に向いた領域なのだ。もしくは起業家であれば就活の当事者ではなくその親からカリスマ的に信頼されるような大物である必要がある。30歳前後の若手起業家にはとりつきにくい。理由はカスタマーの意識を変える大規模なカスタマー教育投資が必要だから。

 その前振りを申し上げた上で、就活塾というビジネスチャンスについて、一緒に考えていくことにしたい。

 一昔前に受験戦争という言葉があった。(選挙から派生した俗説だが)「四当五落」といって4時間しか寝ずに勉強した者が受験に合格し、5時間寝た者は試験に落ちるなどという話がまことしやかに流布されたのはこの時期である。

 筆者は「受験は効率」だと合理的に考えて大学受験を乗り切ったくちだが、それでも人生であれだけの時間を勉強に費やしたのは、大学受験の時をおいてほかにはなかったと思う。

 ところが当時の受験戦争は、大学に入学すればそれでおしまい。4年間無事に単位をとって就活に臨めば、それなりの就職先が待っているという、今から考えると非常にぬるい時代。それが受験戦争が存在した時代であった。

 今はというと、これは皆さん実感値としてご存じの通り、就活戦争の時代である。それもバブル後の就職氷河期よりもさらに厳しい就職活動が、大学生を待ち受ける時代である。

●大切なのに、就活は“子任せ”のワケ

 ここで一見不思議なことは、中高受験や大学受験にあれほどの投資をする親が、大切な息子や娘の就活に関しては子任せという状況が、受験戦争が戦争というほどではなくなった今でもまだ続いていることである。

 時代が変わったのだから、本当ならば自分の子がどこの大学に入るかではなく、どのような仕事を手にするかのほうが、子の将来のキャリアを考えると重要事項である。

 さらに就活は教えることも、サポートすることもどちらも可能であると同時に、どちらも大切だ。例えば就活に成功するか失敗するかの境目は、実は行動量で差が出る。そして要求される行動量が生半可ではないから、多くの学生が途中で心が折れてしまう。伴走することで行動量が十分なレベルから減らないようにモニターしつつ、心が折れないようにケアもする。就活塾がそのような役割を果たしてくれるのであれば、その存在には意味があるはずだ。

 しかし実際の世の中では、そうなってはいない。それはなぜだろうか?

 簡単に言えば2つの認識が予備校市場に比べて就活塾市場を小さくとどめてしまう。ひとつは、20歳を過ぎたらもう子供ではなく大人だと親が認識してしまうこと。もうひとつは、現代の就活がここまで厳しいということを、子が就活をするようになって初めて親も実感すること。後者は就職氷河期を体験した世代が就活生の親になるまでは、口で言ってもなかなか直りそうにはない。