しかし、この親の意識を変えない限り、就活塾の市場規模は大きくならない。違う言い方をすると、就活をする本人の財布からお金を集めようとするビジネスモデルでは、就活塾市場は大きくはならない。
ここには市場創造のパラドックスが存在する。
●生涯賃金で1〜3億の差?
ちなみに就活に成功するかどうかで、どれくらいの収入差が出るかご存じだろうか?
生涯賃金についての研究によれば、一流企業で経験を積んでキャリアアップをしていく社会人人生を送る者の生涯賃金は、3~5億円という金額レベルになる。これに対して、大卒時の就活で労働生産性の低い業界やいわゆるブラック企業に就職した場合は、正社員になったとしても生涯給与は2億円前後である。
アメリカでは大学院に行くかどうかで、生涯給与に1億円程度の差が出てくるそうだ。大学院に行く若者は、そのために1000万円にもなる授業料を数年間かけてため、そのなけなしのお金を投資して大学院に行くことを経済合理的に判断する。
ところが日本の場合、最終学歴が大学院かどうかではなく、最初の就活がどこに決まるかで生涯給与が決まる要素が大きい。とすれば、将来のための十分な投資資金は、まだ自分では準備はできていないステージにいるのが標準的な就活生ということになる。
最終的な成果が1億円単位で違ってくるならば、大学受験の予備校と同レベル、例えば100万円を投資程度の投資は絶対にしたほうがいい。アメリカ人が大学院で自己投資するよりも、はるかに投資は少ない。ところが本人にはそれを支払う資金がなく、親にはそれを支払ったほうが絶対によいという情報が足りない。
だから経済合理的には成立する(もっと言えば投資したほうがいい)就活塾に、十分な投資資金が回ってこない。
結局のところ、就活塾を成立させるには、親の財布から受講料を獲得する有効な方法を見つけ出さなければ、その市場は大きくはならない。
そのためには、親の常識を変えるために、マスメディアを活用した大規模なマーケティング施策が必要だ。ないしは、この世代の親(50代のバブル経験世代が中心)が納得するほどのカリスマが市場創造に乗り出すか、そのどちらかが必要だろう。
受験戦争の終結を宣言するとともに、就活戦争の実態を大いに知らしめ、そこで子たちが勝ち抜くために必要なものを理解させる。その下地ができて初めて、就活塾市場は市場として形成される準備ができるのである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)