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山田政弘「あの話題のニュース/トレンドの裏側は?“実践的”ビジネス塾」(第2回)

PB先進企業・靴のABCマート、驚異の戦略〜ブランド単体と小売、2つの顔で相乗効果

文=山田政弘

 ところが、明治や雪印など、著名ブランドの牛乳が200円くらいで売られていて、小売のPBの牛乳が188円ほどで売られていたらどうだろうか? この両者は同じ顧客を奪い合う構図になっている可能性がある。これをカニバリゼーションという。

 これでは見るからに無駄が多い。できれば、主に富裕層の一部が買うであろう1000円の牛乳、徹底して低価格を求める顧客層には特売の89円の牛乳、コストパフォーマンスを求める大多数の層には200〜250円の牛乳と、それぞれの顧客層ごとに提供する商品をわかりやすくしたい。

 こうすることで、幅広い顧客層を獲得できるためだ。

●幅広い顧客層を獲得するカギが「低価格追求型PB」と「付加価値型PB」の併存

 近年、カニバリゼーションの発生や低価格一辺倒による顧客離れなど、各社ともに安易なPB化の代償に気づき、低価格路線は維持する一方で、付加価値型PBの商品開発を進めることになる。

 それがイオンの「トップバリュセレクト」や「トップバリュプレミアム」、セブン-イレブンの「セブンゴールド」が出てきた背景なのである。

 ちなみに、こうした付加価値型ブランドの投入に関して、上記のような名称をつけること自体、ブランド戦略のセオリーに照らし合わせれば「ツボを外している」としか言いようがないのだが、これらの付加価値型ブランドにおけるアプローチの誤り、について説明すると長くなるので、別途触れる機会を設けたいと思う。

●付加価値型PBには「利幅追求型」と「ホワイトスペース獲得型」の2つ

 さらに、付加価値型PBにも2通りのパターンがある。

 付加価値型PBのひとつ目は「低価格追求型PB」と同様、「同じ価格帯の商品なら、より大きな利幅をとろう」という“自社都合”の論理で開発されている商品。つまり、安さ一辺倒ではないものの、市場にすでにある他社の商品(ナショナルブランド:NB)をコピーし、自社ブランドのラベルをつけて売ることで(中間マージンを省いて)利幅を増やす、という考え方だ。

 そしてもうひとつは、「今の市場にないから、自分たちで創ろう」というホワイトスペース(空白地帯)を獲得するための商品として開発する付加価値型PB。

 つまり、PBには「NBと重複しているが、利幅をとるためにつくる」商品と「市場にないので自社で創る」商品の2パターン存在しているのだ。

●小売としての差別化に直結する「ホワイトスペース獲得型PB」開発を進めているのがABCマート

 前者(NBと重複しているPB)は、往々にして市場にあるNBを真似て、NBより少しばかり低い価格で提供する、という方式をとっていることが多い。「セブンプレミアム」や「トップバリュ」などはその典型だ。

 一方、後者はもともとが市場にない商品を創ろうとしているため、オリジナリティがある。独自のポジションを持っているのである。

 ABCマートは後者のブランドが多い。「Hawkins(ホーキンス)」というブランドでは、「通気性が良い」「本革で1万円」といったような「高機能・高品質・値ごろ」を売りにした紳士靴や登山靴などのワークブーツなどを展開している。

 一方、カジュアルシューズの「VANS(バンズ)」は、デザイン性は高いものの値ごろな価格のスニーカーを中心に、ハイファッションのカジュアルシューズを展開している。

●ナショナル・プライベートブランド(NPB)が今後の潮流

 これまでの流れをもとに将来を予測すると、今後はPB/NBというくくり自体が意味をなさなくなるだろう。せいぜい社内で「うちの(自社の)ブランド」「他社のブランド」かを識別するための記号にすぎなくなる。

 その将来が遠からず到来することを、ABCマートがすでに示してくれている。

 古くは「Hawkins」や「VANS」、最近ではアメリカのマウンテンブーツのブランドである「Danner(ダナー)」をいずれもABCマートが買収、ないしは商標権を獲得(VANSは日本国内での独占販売権を取得)し、ABCマートのPBという位置づけになっている。

 だがいずれのブランドも、決して「ABCシューズ」という名前を使っていない。

 それどころか、ほとんどの消費者は「Hawkins」や「VANS」がABCマートのPBとは知らない、または意識して買っていない。

 結果として、ファッション感度の高いセレクトショップとして有名なロンハーマンやユナイテッドアローズでさえ、(こう言っては失礼だが)ブランドイメージの劣るABCマートのPBである「VANS」のスニーカーを仕入れているのだ(厳密には海外企画のVANS商品の仕入れもあるかもしれないが、消費者から見て、その区別はつかない)。

 つまり、ABCマートというストアブランド(=お店としてのブランド)の枠を超えて、商品が広がっていく。そして世の中で「オシャレ」「高品質」といった高付加価値イメージのブランドの商品が、なぜかABCマートには最も多く揃っており、また(商品によっては)最も安い価格に設定されており、また、別注品(ABCでしか取り扱っていないデザイン/商品)も数多く取り揃えている、という状況がつくられる。結果として消費者は「そこにしかない商品」を求めてABCマートに足を運ぶようになる。

山田政弘

山田政弘

戦略立案、経営者派遣やハンズオン(常駐)型経営支援により企業の成長実現・企業価値向上支援を手がけるストラテジクスパートナーズ株式会社代表取締役。中央三井信託銀行、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)戦略グループ、国内ITベンチャーマーケティングディレクター兼事業開発室長、事業再生コンサルティング会社クライアントパートナー等を経て、全国に店舗を構える靴の製造小売企業株式会社シンコー・株式会社モード・エ・ジャコモの再生担当取締役・事業改革室長としてハンズオンでの経営改革に従事した後、現職。消費財関連のメーカー、小売・流通業やネット企業、外食企業等に対する事業戦略立案、ブランディング、マーケティング支援、製造業に対するR&D戦略等による企業価値向上支援を手がけている。また、複数企業の社外取締役、顧問を務める。主な著書に『数字を使ってしゃべれるようになるトレーニングブック』(明日香出版)『早わかり 図解&実例 よくわかる!ソーシャル・ネットワーキング』 『エッジ・ワーキング』(ソフトバンククリエイティブ)など。

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