2013年10月1日付の当サイト記事『驚愕の人口・高齢化予測~70年後に日本の人口は半分、40年後に人類未踏の高齢社会』において、現在の特殊出生率1.4と同程度の出生率が続いた場合どうなるかという計算結果を示しました。
・東京オリンピックが開催される2020年までに、第二次世界大戦における日本人犠牲者数310万人を超える人口が減少します。
・今の子どもたちが親になっている頃には、首都2つ分の人口が減少し、さらにその子どもが親になっている頃には、人口が現在の半分になります。第二次世界大戦の全世界の犠牲者数はおよそ5500万人との説もありますが、60年後までに日本だけで、それと同程度の人口減少が起こるのです。
さて、政府は今月6日、1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計を示す合計特殊出生率を13年の1.43から1.8程度に引き上げる目標を掲げました。
そこで、今回、合計特殊出生率を1.8に引き上げた場合における人口推移を再計算しましたので報告します。
●合計特殊出生率1.8でも人口1億人維持は困難
まず、首相官邸HPに掲載されていた資料(『「長期ビジョン」骨子(案)』 には、合計特殊出生率1.8を達成する期間が記載されておらず、「2060年には総人口は1億人程度の人口を確保」とだけ記載されていました。
しかたがないので、「1.8、2060年、1億人」という数値だけを使って、自宅のパソコンで計算してみました。
計算する上で考慮しなければならないのは、明日から突然合計特殊出生率が1.4から1.8に上がることはないという点です。過去1.8だった年は37年前の1977年でしたので、これから1.8に戻すには同じく37年程度の時間が必要になると仮定し、以下の3つのパターンで計算しました。
(1)現在の値1.4の場合 (現状から変化なし)
(2)政府目標の1.8の場合 (何かの奇跡が起きて、明日から突然1.8になる)
(3)1.4→1.8となる場合 (現実的に、37年間かけて段階的に増加させる)
計算結果は以下の通りです。
(1)2030年…1億1648万人、2060年…8516万人
(2)2030年…1億2173万人、2060年…1億0022万人
(3)2030年…1億1772万人、2060年…9227万人
これを見ると、政府案であっても2060年に1億人を維持させるのは困難であることがわかります。
そもそも、『「長期ビジョン」骨子(案)』の中には、この1.8を実現する手段が、どこにも記載されていません。加えて、「その後2090年頃には人口が安定していくと推計」という記載がありますが、その理由も明らかにされていません。
合計特殊出生率1.8とは、男女2人から1.8人しか生まれてこないということですから、人口は安定せず減少を続けるのみです。上記(3)のパターンでさらに先の将来を計算すると、2090年には7527万人、2200年には4699万人、2300年には3080万人となります。人口を安定させるためには、2人の親から2人の子どもが生まれてこなければならないことは自明の理です。
以前から政府の少子化対策は効果に疑問がありました。今回の骨子案では、具体的な数値が出てきただけマシですが、「1.8を実現する方法」「2090年頃に人口が安定する理由」は、まったく不明です。
内閣府は、長期ビジョンと総合戦略を12月中に取りまとめる予定としています。
仮に、政府が1月24日付当サイト記事『出産しやすくする”技術的”方法~出産時期を調節、出産・育児を外部委託…』で言及したような内容にまで踏み込めれば、非難の嵐にはなるでしょうが、私は評価します。
しかし、12月に発表されるであろう長期ビジョンと総合戦略に、「1.8を実現する方法」と「2090年頃に人口が安定する理由」が、実現可能な内容で、具体的に記載されていなければ、政府には本気度が足りないといえるでしょう。
(文=江端智一)
※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。