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複雑化する同族企業の「後継者問題」(1)

ナッツリターン事件が助長する論拠乏しき「同族経営性悪説」 「世襲はダメ」の一般化は無謀

文=長田貴仁/岡山商科大学教授、神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー
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●「現代型帝王学」教授の要諦

 近年、株主重視経営の名のもとに営利精神に偏る傾向が見られたが、08年秋に起こったリーマンショック以降、経営者のバランス感覚が強く求められるようになってきた。その意味でも、ハングリーであることが過度に美化される経営者論も現在の潮流には合っていないのではないだろうか。かといって、「経営者となるには、金持ちに生まれなくてはならない」と言っているわけではない。大切なのは、親がどのような仕事をしていた人であれ、経営者マインドを持っていたか否かである。サラリーマン社長にインタビューしていると、「父は商売をやっていました」「父は中小企業の経営者でした」「母子家庭だったので母が大黒柱になっていました」と小さい頃から、姿はそれぞれ違えど、リーダーの姿を見続け、その行動パターンをしっかり記憶にとどめている人が多いことに気づく。

 父が経営者で富裕な家庭環境で何不自由なく育てられたとしても、父が家庭で経営者の姿を見せ、口がすっぱくなるほど経営哲学を語り続けていなければ、子弟は経営者マインドを記憶に留めることさえなく、豊かさだけを享受した平和ボケの大人に育つことだろう。

 また、同じ富裕層でも、日本がまだ貧しかった頃に育った人と、豊かになった時代に育った人とは決定的に違う。それは、「自分たちより貧しい人がいる」「私は恵まれている」という認識である。貧しい人が周りにいて、その生活を目にしていれば、「私は幸せだ、その分がんばって人々のためにならなくてはいけない」と思うお坊ちゃん、お嬢様は少なくないことだろう。だが、高級住宅街に住み、富裕な家庭の子息が集う学校に通学し、セレブな雰囲気しか知らないで育つと、はたして庶民の苦しみはわかるのだろうか。それを実感できなくても、企業家としての欲を死守しながら私利私欲を捨て庶民のために貢献する「ノブレス・オブリージュ」【編註:富や権力には相応の義務が伴うとする考え方】のような精神が育まれるだろうか。そういった意識をしっかりと持って帝王学を教えないと、勘違いするバカ殿が誕生する危険性を秘めている。

 経済が豊かになり、精神が劣化したといわれる現代の日本においては、平均以上に豊かな家庭で育った人にとっては、あまりにも誘惑が多い環境になってきているといえよう。それだけに、体系的にしっかりとした帝王学のカリキュラムを考えておかなくてはならない。
(文=長田貴仁/岡山商科大学教授、神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー)

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