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日向咲嗣『「無知税」回避術 可処分所得が倍増するお金の常識と盲点』第15回

「新築戸建ては高くて当然」幻想の崩壊 1千万台続出、大手メーカーの暴利露呈?

文=日向咲嗣/フリーライター
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「新築戸建てが1280万円なんて、いくらなんでも無茶です。中古はさらに下げないと売れないし、土地も下がる一方。適正価格でやってもらわないとホント困ります」

 今年1月末、千葉県北西部の私鉄沿線において、4LDKの新築戸建が1280万円まで値下げして売り出されたことについて、地場の不動産業者に聞くと、そんなコメントが返ってきた。

 最寄り駅から東京都心まで1時間かからないエリアにある、土地137平米、建物99平米の4LDK――それが投げ売り状態に陥ってしまったのは、「明らかに供給過剰によるもの」だと地元関係者は口を揃える。しかし、供給過剰は今に始まったことではない。なぜそんな事態に陥ってしまったのだろうか?

 その謎を解くカギは、「歌舞伎俳優の市川海老蔵氏にある」と言えば、きっとピンとくる人も多いだろう。そう、昨年末から「新築の家を1日100棟、1年に3万6000棟、分譲住宅日本一」とテレビCMを流している飯田グループホールディングス(GHD)が、価格破壊の立役者となっているのである(2015年3月期の戸建分譲は年間4万棟突破)。

 同社は、「パワービルダー」(以下、PB)と呼ばれる建て売りが主力事業の中堅建築会社6社が13年に統合してできた東証一部上場の持ち株会社だ。この統合によって、売上高1兆円を超える“建て売りのガリバー”が誕生した(14年3月期における傘下6社売上高の単純合算)。このとき、大手不動産・ハウスメーカーも含めた売り上げ規模においては、住友不動産や住友林業を抜き去って、三菱地所と肩を並べる6位に躍り出た。

 飯田GHD傘下の企業はどこも、統合前から激安の建て売り住宅を年間数千棟という猛烈な勢いで建築し続けてきたツワモノ揃いである。

 ローコストのビジネスモデルを最初に構築して、全国展開するPBの嚆矢となった一建設を筆頭に、首都圏で一建設を猛追していたアーネストワン、「地震に強い家」の技術力の高さをアピールする飯田産業、価格は安いながらも「ブルーミングガーデン」ブランド構築に注力していた東栄住宅、存在は地味だが堅実に毎年数千棟の物件を供給し続けていたタクトホームとアイディホーム……。ローコストの建て売り住宅を大量に供給していた中堅6社が大同団結して設立された飯田GHDが、戸建て分譲の分野でシェア拡大を追求しようとすれば、おのずと供給過剰気味にならざるを得ない。

 家電などの工業製品が、常に供給過剰気味に市場に投入され続けるのと同じで、大量生産による価格競争力を最大の武器に戦うPBのシェアが高まるにつれて価格が下がるのは、ある種の宿命といってもよいだろう。

 東日本レインズによれば、首都圏における新築戸建ての平均成約価格は、07年には4023万円だったのが、14年には3415万円と、この7年間で600万円も下がっている。その立役者となったのが、都市郊外で低価格物件を売りまくったPBなのである。

 ちなみに、飯田GHD傘下6社合計の戸建て分譲市場におけるシェアは、この間に16.3%から31%とほぼ倍増している。

1280万円で安売りしても利益は出る?

 事業展開速度アップを至上命題とするPBは、もともと在庫を抱えることを極端に嫌う傾向があった。売れ残った物件を赤字覚悟で損切りするのは、これまでも各社それぞれの決算期前には、よく見られた光景である。

 ところが、飯田GHDは統合に当たって傘下6社バラバラだった決算期末を昨年度から3月に統一。その2期目となる今年度は、消費増税の駆け込み需要のあった前年度からは一転して消費者心理が冷え込んだ影響をモロに受けたようで、昨年春以降のマイホーム購入意欲低下の度合いは想定をはるかに上回っていた。

 冒頭で紹介した千葉県北西部の現場を例に取ると、10月に完成した全7棟は、翌年1月末になっても1棟も売れていなかった。

 土地の仕入れから引き渡しまでを年2~3回転する「ファストフード」ならぬ「ファストホーム」のビジネスモデルを構築したPBにおいては、建物完成までに完売するのがオキテ。それにもかかわらず3カ月経過しても売れないのは異常事態といえる。そこで、なりふりかまわぬ値下げをした結果、ついに1280万円という前代未聞の価格がついてしまったというわけである。前出の地場不動産業者がこう続ける。

「私が把握している現場では、秋口に2380万円だった物件が半年で1000万円下げて1380万円まで下がりました。在庫期間の長さが全国でも有数だったらしいです」

 驚くのは、それほど大幅な値下げを余儀なくされたにもかかわらずPBは、トータルでは、しっかりと利益を上げていることだ。飯田GHDにおける15年3月期決算を見ると、売上高1兆1880億円に対して、その4.7%に当たる554億円の営業利益を上げていて、約8%から大幅下方修正されたとはいえ、想定外の事態が起きても利益を確保できることを示した。リーマンショック後にそれまで勢いのあったマンションデベロッパーが捨て値での在庫処分によって軒並み赤字に陥ったケースとは、根本的に収益体質が異なることがわかる。

 つまり、「新築戸建て1280万円」は「見切り品」ではあるけれども、現場単位ではしっかりと利益を出しており、決して「投げ売り」ではなかったのだ。

 逆にいえば、大手のハウスメーカーや戸建てを手掛けるデベロッパーが、戸建て住宅において、これまでいかに高い利益を得ていたかということである。

 長年「不動産は高くても仕方ないもの。特に新築戸建ては高嶺の花」と思っていた消費者の常識を根底から覆すだけの潜在的な価格競争力を、PBはまだ持っているのである。
(文=日向咲嗣/フリーライター)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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