今、与党で議論されている「軽減税率の対象品目をどうするか」という問題が、暗礁に乗り上げている。軽減税率とは、消費税が10%に増税される2017年度のタイミングで、対象の品目について標準より低い税率を設定するというものだ。
現在、「酒類を除く飲食料品」「精米」「生鮮食品」の3つの試案が出ているが、「精米」と「生鮮食品」を対象品目にするのは非現実的である。
まず、「精米」だけを対象にしても、「税率が軽減された」という実感は持ちにくい。公明党が声高に訴えてきた「低所得者層の負担軽減」という謳い文句は、絵空事だったということになってしまうだろう。消費者や有権者からすると、「しょせん、軽減税率なんかやる気はなかったのではないか」ということになるため、「精米」は論外である。
次に「生鮮食品」だが、これは「加工食品」との線引きが難しい。「単品の刺身は生鮮食品」で「2種類以上の刺身盛り合せは加工食品」という例が語られているが、実際はより複雑だ。そのため、生鮮食品と加工食品のどちらを対象品目にしようとも、やっかいな問題が生じる。
生鮮食品と加工食品を線引きする際に、消費者庁が定める食品表示法の食品表示基準が用いられるが、これは曖昧な点が非常に多い。加工食品を軽減税率の対象にすれば、販売側はできる限り加工食品にして販売しようとする。刺身の場合、単品より盛り合わせを増やそうとするだろう。
しかし、それだけでは終わらない。食品表示基準で加工食品に分類されている中には、「生鮮食品を調味したもの」も含まれている。塩やしょう油、ソースなどで調味すれば、加工食品になるわけだが、その線引きがはっきりしていない。
塩一粒でも振ってあれば「加工食品」に?
例えば、「生鮭」と「塩鮭」の差はなんだろうか。「生肉」と「こしょうで味付けした肉」の差はなにか。「たれ付け」の範囲はどこからか……といったことが曖昧なのだ。
「少しでも塩が振ってあれば、塩鮭に決まっている」となると、非常にやっかいだ。塩を一粒でも振れば加工食品(塩鮭)になるのであれば、生鮭が塩一粒で減税されることになる。
塩を一粒振ったくらいでは味にも影響はないし、実質的には生鮮食品と変わらない。しかし、生鮭を買いに来た消費者は、「一粒も塩が振られていない生鮭」より、安い「塩一粒鮭」を選ぶだろう。
こしょうを振りかけた食肉にも、同じことがいえる。そのうち、「こしょう一粒牛肉」がお目見えするかもしれない。「それは、見た目で判断すればいい」と思うかもしれないが、そうはいかないのが現実だ。