11月の半ば、紙面全体を使った巨大な意見広告が、読売新聞と産経新聞に掲載された。題して「私たちは、違法な報道を見逃しません」。広告主は「放送法遵守を求める視聴者の会」という団体だ。内容は、報道番組『NEWS23』(TBS系)のキャスターである岸井成格氏(毎日新聞特別編集委員)の発言を非難するものだった。
今年9月16日、参議院で安保関連法案の審議が進む中、岸井氏は同番組内で「メディアとしても廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだと私は思います」と述べた。この発言を、意見広告は番組編集の「政治的公平性」の観点から、放送法に対する「重大な違反行為」だと断じている。
確かに放送法第4条には、「政治的に公平であること」や「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」が規定されている。しかし、それは個別の番組内における公平やバランスではなく、事業者が放送する番組の総体で判断されるべきものだ。その意味で、岸井氏の発言自体は“違反行為”などではない。
2つの全国紙に、全面広告を打つ費用は決して小さくはない。個人に対する意見広告というのも異例だ。この組織にとって、是が非でも訴えたい内容だったということか。
しかし、それ以上にこの意見広告がかもし出す違和感は、「視聴者(市民)の意見」というかたちをとりながら、メディアコントロールを強める現政権の思惑や意向を見事に体現していたことだろう。
これまで『NEWS23』は、『報道ステーション』(テレビ朝日系)と並んで、政権に対しても「言うべきことは言う」姿勢、「伝えるべきことは伝える」意思を示してきた。故・筑紫哲也氏がキャスターを務めていた頃と比べて弱まってはいるが、岸井氏が引き継いできた大事なカラーである。
昨年11月、『NEWS23』に出演した安倍首相は、VTRで紹介された街頭インタビューで自身にとって厳しい意見が流れると、生放送中にもかかわらず「これ、ぜんぜん(国民の)声を反映していませんが。おかしいじゃないですか」と抗議した。そうした経緯も、今回の異様な意見広告を見て思い起こされた。
政権の反感・反発を“代弁”
また、この広告が出た時期も絶妙だった。10日ほど前の11月6日に、放送倫理・番組向上機構(BPO)が、『クローズアップ現代』(NHK)のやらせ問題に関して「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表。この意見書の中で、放送に介入しようとする政府・与党を、「放送の自由と自律に対する圧力そのもの」だと強く批判したのだ。意見広告は、BPOの意見書に対する政権の反感・反発を“代弁”したかのようなタイミングと内容だった。