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宇多川久美子「薬剤師が教える薬のリスク」

薬の原価率はわずか1%で暴利?安価で危険な中国・韓国製が大量流通…

文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士
薬の原価率はわずか1%で暴利?安価で危険な中国・韓国製が大量流通…の画像1「Thinkstock」より

 ジェネリック(後発薬)とは、特許が切れた薬(先発薬)のコピー商品のことで、特色は価格が安いことです。

 製薬会社は、薬をひとつ開発するのに10~20年以上の歳月と、数百億円の資金をかけます。抗がん剤では1000億円を超すケースも珍しくありません。それほど薬の開発には莫大な費用と時間が必要なのです。薬の値段が高いのも、開発費として注ぎ込んだ膨大な費用を回収しないといけないからです。

 その半面、開発が済めば薬の製造コストは微々たるものです。薬の大半は石油の副産物ですから、原材料にかかるコストはわずかなのです。昔から暴利を貪ることを「薬九層倍」といい、薬は原価の9倍で売ると揶揄されてきましたが、実際の原価はもっと低いようです。

 某大手製薬会社の研究所で所長を務めた方から直に聞いた話では、その会社ではどんな薬でも原価率を1%以内に収めることが至上命令だそうです。ほかの会社も、おそらくそうだろうということでした。

 このように、薬という商品はソフトの部分に膨大な費用がかかる一方、ハードの部分は少しの費用で済むのです。この辺の事情は欧米も同じです。たとえば、欧米ではジェネリックが先発薬の5~15%程度の安値で販売されていますが、開発費がほとんどかからず、製造原価も1%程度なので、激安価格で販売しても十分利益が出るのです。

 ひと昔前、日本ではジェネリックを「ゾロ薬」と呼んでいました。「怪傑ゾロ」のようにカッコいい薬という意味ではありません。先発薬の特許切れを待って、雨後の筍のごとくゾロゾロ出てくるからです。

 これは欧米も同じで、ゾロゾロ出てくるジェネリックは瞬く間にシェアを伸ばし、今では医薬品数量の60%以上を占めるようになりました。

 しかし、日本ではシェア20%前後の状態が長く続きました。多くのジェネリック薬は価格が先発薬より3割くらいしか安くならず、自己負担額が月に1000円くらいしか違わないのであれば、使い慣れた先発薬をそのまま続けるほうが安心と考える人が多かったからです。

 世界的に見ると、ジェネリックは「先発薬の1割程度の価格」が一般的ですが、日本ではその常識が通用せず、高い価格が続いたのです。 

質の低いジェネリックも多数

 しかし、ここにきて状況は一変しました。とどまるところを知らない医療費の膨張に歯止めをかけるため、政府は2018年3月までにジェネリックのシェアを欧米並みの60%に引き上げることを目標に掲げ、施策を次々に打ち出すようになったのです。

 先発薬の5割くらいの価格水準に引き下げられただけでなく、薬局に対しては、ジェネリックを出す割合が高いほど報酬が加算される仕組みが導入されました。同様に医師に対しても、薬を処方する際には先発薬指定でなく、薬局でジェネリックも選択できる書き方にすると診療報酬が加算されるようになりました。

 これにより患者側は、医師や薬剤師からジェネリックを勧められるケースが増えたのです。日本では5~10剤併用も珍しいことではないので、毎月の薬局窓口での支払いが2000~3000円減ったと喜んでいる方が多くいます。

 その一方で、ジェネリックを処方された方から、「効き目が一気に出てすぐ終わる」「効き始めるのが遅すぎる」「発疹が出たので元の薬に戻したい」といった不満もあちこちで聞かれるようになりました。

 先発薬をコピーした商品なのに、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。最大の要因は、コピー商品といっても主成分が同じなだけで、それ以外の技術はメーカーによってかなりばらつきがあるからです。

 ジェネリック薬品でも、優秀なメーカーは独自に工夫をするので、先発薬よりも評判のいいケースもたくさんあります。その一方で、品質を維持する技術などが低いところが多くあり、それが早く効きすぎる薬や、効かない薬が頻出する元凶になっているのです。

中国、韓国から輸入したジェネリックは要注意

 効かないジェネリック、副作用が出るジェネリックが生まれるもうひとつの要因は、安全性や品質管理に問題のある外国製の安いジェネリックを日本の会社が輸入し、自社のパッケージに詰めて販売しているケースが多いことにあります。

 このような、「外見は日本製、中身は外国製」といった薬は、日本で流通しているジェネリックの約5割を占めるともいわれています。主要な輸入先は、購入金額ベースでみると韓国がトップで全体の31.0%を占めています。次いで中国が12.3%ですが、スペイン9.9%、イタリア8.9%、ハンガリー8.4%など、欧州からの調達も多いようです。

 成分数ベースでみるとシェアが最も高いのはイタリアで、全体の22.5%です。以下、韓国15.7%、中国14.0%、インド10.2%と続きます。

 韓国は中小企業の技術力が低いうえ、安全面への配慮が十分にできない傾向があります。12年には二度、日本に向けて輸出した原薬が製造品質管理基準に適合しないことが判明し、厚生労働省から各メーカーに改善命令が出たため、高血圧治療薬アテレック(一般名:シルニジピン)のジェネリック、抗精神病薬リスパダール(一般名:リスペリドン)のジェネリックなどが一定期間販売停止に追い込まれています。

 中国に関しては、食の危険性だけに目が行きがちですが、14年9月に医療関連の死者が年間40万人いるということが京華日報で報じられ、日本でも話題になりました。しかも大半は医薬品の服用ミスが原因だと報じられています。

 日本でも、ひと昔前は医師や薬剤師の指示通りに飲まない患者が大勢いましたが、何百何千という単位で服用ミスによる死者が出たという話は聞いたことがありません。

 下水道からくみ取った油を原料に製造した抗生物質が日本に輸出されていたと報じられたこともあるように、中国は安全性に関して無法地帯のような状態です。そのため、本当は薬の安全性に問題があるのに、原因を「患者の無知」にすり替えているような気がしてなりません。

安全な薬の選び方

 一昨年、日本ではジェネリックのシェアが50%を超え、今後も増加が見込まれています。筆者もジェネリックを全否定する気は毛頭ありません。患者さんの声や、データとして効果が先発薬と同レベル、あるいはそれ以上と評価されているものは積極的に活用すべきです。

 ジェネックの使用を躊躇している方の多くは、インターネットで調べても、どのジェネリックが良くてどれが悪いかなどの情報が掴みにくいために踏み切れないようです。

 このような場合は、ジェネリックに詳しい薬剤師に相談するのが一番です。調剤薬局では、ジェネリックの比率を上げることで調剤報酬の加算もありますので、ジェネリックについての情報を蓄積したり仲間同士で情報交換したりして、“ジェネリックのソムリエ”と呼べるほどの能力を持っている薬剤師もいます。

 日本は今、コンビニエンスストアよりも薬局のほうが店舗数の多い時代ですから、自分に有益な情報を提供してくれる薬剤師を是非見つけてください。薬の専門家である薬剤師をしっかり活用して、有効で安全な薬選びをしてください。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

薬剤師として20年間医療の現場に身を置く中で、薬漬けの治療法に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は、自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に、薬に頼らない健康法を多くの人々に伝えている。『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)、『薬が病気をつくる』(あさ出版)、『日本人はなぜ、「薬」を飲み過ぎるのか?』(ベストセラーズ)、『薬剤師は抗がん剤を使わない』(廣済堂出版)など著書多数。最新刊は3月23日出版の『それでも「コレステロール薬」を飲みますか?』(河出書房新社)。

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