「給料日前、彼の財布から2000円抜き取ったことがある」(30歳・証券会社勤務)
「クレジットカードの返済が毎月20万円あり、首が回らない」(32歳・広告代理店勤務)
「女子会の出費が月8万円。手取り月収は25万円です」(35歳・アパレル関連会社勤務)
今年2月に出版された『貧困女子のリアル』(小学館/沢木文)のなかにある、女性たちの言葉だ。
「貧困女子」といえば、シングルマザーや無職あるいは風俗店勤務など一部の若い女性の話――。そんな定説を覆すような実態が、同書には描かれている。同書に登場する11人の女性は、いずれも大学や短大を卒業して社会で活躍している30代だ。
なかには、年収700万円、貯金500万円などというケースもある。なぜ、そんな女性たちが貧困に陥ってしまうのだろうか。著者の沢木文氏に聞いた。
SNS用に30万円のトイプードルを購入、世話に飽きて瀕死状態にさせた35歳女性
–本書に出てくるのは、「低学歴で低収入」という固定観念に当てはまらない女性たちです。
沢木文氏(以下、沢木) 今、働く単身女性の3人に1人が年収114万円未満といわれています。しかし、そういった貧困者やシングルマザーの人たちに対しては、行政などの救済インフラが整っていると感じます。
例えば、シングルマザーの女性に話を聞くと、助成金などでけっこう援助を受けていたり、遊園地の割引チケットや多少傷ついたオムツなどをもらえたりするようです。また、シングルマザーを助けるための団体やシェルターも用意されています。
非正規雇用などの労働問題で悩む人に対しては労働ユニオンなどもありますし、生活を立て直そうと思えば、立て直せる環境は整っているのです。
沢木 そのため、自分でも借金の総額を把握できていなかったり、事の重大さに気づいていなかったりする人も少なくありません。収入はあるわけですから、それを「自業自得」の一言で済ませてしまうのは簡単ですが、背景には「歪んだ親子関係」「見栄」「コンプレックス」「依存症」など重層的な問題があるため、単純な貧困者よりも抜け出すのが困難なのが実情です。
–そのなかでも、どの問題が一番厄介だと思いますか?
沢木「見栄」ですね。本書には、大手広告代理店に正社員として勤務する35歳の女性が出てきます。彼女は「自分にお金がない」という自覚がなく、浪費女子の典型例です。年収は500万円もあるのに、親から300万円、消費者金融から100万円以上の借金をしています。
–実家が裕福で、中高生時代に月のお小遣いが10万円、エルメスの財布(15万円)やシャネルのトートバッグ(12万円)を親から買い与えられていたという女性ですね。
沢木 彼女の場合、フェイスブックで「リア充なワタシ」をアピールするために、金遣いが病的になっていったようです。パーティーや女子会、タレントがらみの食事会などの情報を連日アップ、一人暮らしをした際には30万円のトイプードルを購入して、3週間ほどは犬の情報をアップしていました。
しかし、いずれ飽きてしまったのか、パッタリと投稿が止み、それを不審に思った母親が訪ねてみると、放置されたトイプードルは瀕死の状態になっており、あわてて動物病院に駆け込んで一命を取り留めたそうです。
貧困女子に共通する「幼児性」とは?
–正常な判断力を失ってしまい、自分の身の丈に合った消費や生活サイズを設計することができない。それは、なぜでしょうか。
沢木 この女性の場合は、承認欲求に加えて怠惰な性格にさせた親の責任もあると思います。また、大学時代に裕福な男性と付き合ったことで、さらに贅沢の味を覚えた面もあるようです。
別の女性では、経営者の金持ち男性と交際したことで「年収3000万円の彼の経済力を、自分の経済力だと勘違いしちゃった」というケースもありました。
彼女たちは、いずれも中途半端な美人です。そこそこきれいな女性に対して、周囲が必要以上にチヤホヤしてしまう。そのため、もはや自分の身の丈がわからなくなってしまうのです。身の丈がわからなければ、過ちに気づいて軌道修正することは、難しいのではないでしょうか。
–100人以上の貧困女子を取材している沢木さんが思う、貧困女子の共通点とはなんでしょうか?
沢木 まずは「幼児的万能感」が抜けないことです。「私は大切にされて当たり前」と思い込んでいる。本来、仕事や人生は目の前にある自分にできることをコツコツとこなすことでしか、前に進むことはできません。
しかし、本書に登場する女性たちは「私はこんなにかわいいはずなのに……」「なんで私がこんな仕事を?」などの思いを抱えており、心の奥底では「いざとなれば、誰かがどうにかしてくれる」という甘えがあります。
また、中途半端な美人が多いことも特徴です。いわゆるスクールカーストのヒエラルキーのなかで2番手、3番手あたりの「かわいいね」と言われていた子が一番危ない。中途半端にチヤホヤされ、中途半端にいろいろな体験をしてきているケースが多いからです。
例えば、大学時代に金持ちのおじさんと不倫してハワイに行ったり、ヴィトンのバッグをプレゼントしてもらったり……。会社などでも優遇されるから「仕事でのし上がってやろう」というハングリー精神にも欠ける。だから、中途半端な美人は貧困になりやすい、ということはいえると思います。あとは、そもそも貯金の習慣がないことですね。
–月に30万円入ったら、それを全部使う。それどころか、40万も50万使ってしまうから借金が膨れ上がってしまう。本書を読んでいると、よく出てくる描写です。
沢木 それには、親の教育が大きいと思います。例えば、私は「お金が入ったら、1割はとっておけ」と言われて、その積み重ねでやってきました。仮に月収が10万円でも、1万円とっておけば年間で12万円になります。そういったことを親が教えてくれた子供は「ほしいものがあるけど、このお金はとっておかなきゃ」と我慢できるため、貯蓄を習慣化することができます。
本書では「実家力」という言葉を使っていますが、実家の経済力に余裕があると、子供に潤沢にものを与えてスポイルしてしまったり、子供の借金を肩代わりしたりといったことができてしまう。結果的に、本書に登場するような女性を生んでしまうわけです。
だから、親の経済力ではなくて教育や資質という部分もすごく大きいと思います。親世代を取材していて「お金がないんだけど、子供を私立に入れたい。借金しないと……」という言葉を聞いて驚いたことがあります。そこで借金して私立に入れても、その先に無理が生じることは明らかなのに、それが見えない。そういう親に育てられた子供は、本書に出てくるような貧困女子になるんだろうな、と思いました。
収入の倍以上浪費する、読者モデルの謎の生活
–そもそも、本書を執筆したきっかけはなんでしょうか。
沢木 女性誌の編集者をしているので、10年ほど前にネタ探しのために読者モデルのブログなどをよく見ていました。すると、「ハワイ旅行に行ってきました!」「(高級店で)女子会しました!」みたいな記述がすごく多かった。
収入は月20万円ぐらいだと思われるのに、計算すると、それだけで支出は40万円を超えるわけです。それに家賃や光熱費などを払っていたら、どうやって生活しているのだろう……と思って、後に聞いてみたことがあります。
すると、「親が援助してくれている」「彼氏が金持ちだから」といった実態が見えてきました。でも、親はともかく男性がチヤホヤしてくれるのは、若さと美貌があるから。そこに甘えている女性は、それがなくなった時に行き詰まると思います。
–本書のなかにも、「30代後半になったら、言い寄る男性が減ってきた。明らかに(女性としての)ランクが落ちている」という記述がありますが、そのあたりは残酷なほどシビアです。
沢木 若くてかわいいうちは、なんの疑問もなくいろいろなメリットを享受しているけれど、気がつけば何もない、という人生になりがちです。「バツイチの男性を狙って婚活する」などと言っているきれいな女性もいますが、バツイチの男性は女性を見る目がシビアなので、そもそもそんなノリの女性を選ぶことはないでしょう。
–「いわゆる普通の女性まで貧困女子になる」「身近な女性が、実は貧困女子かもしれない」というのも、本書のテーマのひとつかと感じます。危ない人の見極め方やサインなどはあるのでしょうか。
沢木 持っているものが必要以上に派手だったり、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で身の丈以上の生活をアピールしていたりしたら危ないでしょう。また、心の病は摂食障害や過食嘔吐などにもつながりやすいので、「ジャンクフードが手放せない」「仕事をしながらお菓子をボリボリ食べている」といったことも危険要素です。
会社の同僚に貧困女子がいるかもしれない、といった意味では、実は40代男性などの上司世代にも読んでほしい本です。
(構成=編集部)
『貧困女子のリアル』 社会的に注目されている貧困女子はシングルマザーなどが多かったが、ここにきて、短大や大学を卒業した30代女性たちが貧困状態に陥っていることが表面化してきた。街金での借金、親からのDV、男性への依存など、悲惨な現状はネットや雑誌でも話題になり、反響は大きい。学歴があるのに、なぜお金に困るのか、なぜ人生を捨てたような日常になってしまうのか。親や上司の世代には理解しがたい驚くべき現実。そして意外に共感できるという同世代の女性たち。社会問題としての貧困女子を浮き彫りにする。