水素水ブーム、効果ゼロのインチキ高額商品が蔓延!死の危険も!水素は水にほとんど溶けない
ようやく水素水ブームに行政が待ったをかけるようになり、少しは沈静化の兆しを見せ始めています。
この手のビジネスは、急激に盛り上がっては急に鳴りを潜めるというパターンが多いものです。低周波ダイエット器具などは最たる例で、実際にブームに乗ってしまった方もいらっしゃるでしょう。しかし今回の水素ブームは、あまりに性急な展開だったので、事の次第をきちんと把握できていない人も多いかと思います。
そこで今回は、水素水を導入として、ついでに化学の基礎の復習もしたいと思います。今回のブームだけでなく、ほかのインチキ商売に惑わされなくなるためにも、再確認をしていきましょう。
水素水って何?
水素水は、水素が溶けていると“自称する”水や、水を電気分解することで水素と水素ラジカルを含んだ弱いアルカリ性の水などが売られています。「水道水から水素水をつくる」と謳っている商品の大半は後者の電気分解水です。
この電気分解による水素水がまったくの“ニセ科学”なのかと問われると、そうでもありません。真面目に研究されている部分もあり、一部の情報には信憑性が高いものも含まれています。ただ多くは、まだ試験管レベルのもので、人間に対して「アトピーが治った」「アンチエイジング効果が確認できた」といった研究発表はないようです。一部では動物実験で優位な効果も出ており、それを悪質業者が誇大して広告に利用しているという感があります。
つまり、まだ研究途上であって、「有意に大きな効果があるかもしれない研究テーマ」という段階です。そんな研究が完全に覆い隠されるくらいにインチキ商品があふれかえっており、市場に出回っている商品の大半はなんの効果も期待できない状況ですが、安易に水素水のすべてを否定することはできません。
水素自体がなんの根拠もなく、ゲルマニウムのように「まったく無意味」と一刀両断できればスッキリするのですが、実際にきちんと研究している人もいるという点が悪質業者をはびこらせる原因になっているといえます。
そのため、「良い効果が出る可能性があって、特に体に悪くないのであれば飲んでおいても損はしない」と判断し、ブームに乗ってなんとなく買ってしまう人がいるのも仕方ないかもしれません。
しかし、町にあふれる水素関連商品は、うっかりすると死亡事故まで起こしかねない危険なものまで販売されており、見過ごすにはあまりに危険な存在なのです。
しかも、零細のいかにもあやしい業者が細々と販売しているならまだしも、名だたる大企業が大手を振って水素水ビジネスに参入して、さも健康に良いかのように吹聴し、それを真に受けて喜んで買い求める人が多数いる現状を見ると、科学立国どころか理科の初等教育からの完全なる失敗を国全体で現すような醜態であると残念に感じます。
ペットボトル入り水素水には水素が入っていない?
ともあれ、危険性や正当性について判断できるように、中学生程度の化学の話から説明していきましょう。
まず、「水素が水に溶けている」というものと「電解水素水」の違いはなんでしょうか。
水素は、ご存じのように常温常圧の状態では気体、ガスです。気体の時の水素を化学式で表すとH2で、水素元素同士が2つペアとなって「分子」と呼ばれる形をとっています。気体は液体に“多少”溶け込むことがあります。
たとえば、二酸化炭素は比較的水に溶けやすく、たくさん溶けたものを炭酸水と呼び、ソーダ、コーラ、シャンパンなど、いまや喉を潤す飲み物として欠かせません。酸素もまた水に溶けます。酸素が溶けている水の中であれば魚は呼吸でき、密閉した水の中でエアレーション(エアーポンプなどで酸素を溶け込ませること)なしでは、次第に酸素を使い果たして死んでしまいます。
しかし、水素は水にほとんど溶けません。1気圧(通常の気圧)、気温摂氏20度での飽和濃度(水に溶ける限界量)は1.6ppmとされています。ppmはパーセント(100分の1)より細かい単位で100万分の1という意味です。
また、水素分子は極めて小さいため、ペットボトル入りの水素水は、充填時には水素が溶けていたとしても、店頭に並んでいる時には抜けている可能性が高いといえます。
なぜなら、水素の分子サイズに比べるとペットボトルは分子が大きく、ザルの目のようなものだからです。ペットボトルを構成するポリエチレンテレフタラートは、便利なプラスチックで液体を保存できます。これは、ザルに米粒を入れてもこぼれないのと同じ理屈で、単純に液体の水分子のほうが大きく通り抜けられないからです(実は若干不正確な説明ですが、わかりやすくするため簡単に表現しています)。
ペットボトルの容器を水素が通り抜けてしまうのは事実で、最近は薄いアルミニウムでコーティングがされたビニールや、マイラーフィルム(ポリエステルフィルム)製のボトル、アルミボトルなどが使われています。
このように手間をかけた水素水は、通常の水よりも高値で販売されていますが、現時点で有意な効果は確認されていないので、飲む必要はありませんね。
後編は電解水素水とイオンについて、頭の中の理科知識を整理し直しましょう。
(文=へるどくたークラレ/サイエンスライター)