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村上純一「医療の裏を読む」

米国で販売禁止の殺菌剤含有の石鹸、日本で野放し…優れた殺菌効果なしと米当局指摘

文=村上純一/医療ジャーナリスト
米国で販売禁止の殺菌剤含有の石鹸、日本で野放し…優れた殺菌効果なしと米当局指摘の画像1「Thinkstock」より

 9月2日、米食品医薬品局(FDA)が19種類の殺菌剤を含有する石鹸などの販売を禁止すると発表し、衝撃を与えている。これらの殺菌剤を含む石鹸は、通常の石鹸と比べて優れた殺菌効果があるとはいえず、かえって免疫系に悪影響を及ぼすおそれがあると警鐘を鳴らしている。

 特に、殺菌剤のうちトリクロサンとトリクロカルバンは、日本でも殺菌作用をうたう石鹸、ハンドソープ、ボディソープ、歯磨き粉などに広く使用されている。さらに、防腐剤・抗菌剤・消臭剤として、化粧水やクレンジング剤、美容液、フェイスクリーム、日焼け止めといった化粧品類にも添加されている。

 以前からトリクロサンは危険性が指摘されており、2013年にはFDAがトリクロサンを含む石鹸などを製造する企業に対し、抗菌石鹸の病気予防や感染抑制効果が、普通の石鹸よりも勝ることを実証するよう要求している。そして今回の発表では、トリクロカルバンも同様の危険性があるという。

 日本で販売されている殺菌剤使用製品の多くは、「薬用」と名前がついているのが特徴だ。購入前に、成分をよく確認するようにお勧めしたい。

 トリクロサンやトリクロカルバンは環境ホルモン作用が指摘され、内分泌かく乱作用や筋収縮異常との関連が懸念されている。動物実験では肝硬変や肝細胞がんの発症リスクが高まることが判明している。食品添加物ではないとはいえ、皮膚を通して体内に取り込まれることがわかっている。また、歯磨き粉、マウスウォッシュなどによって体内に取り込まれる可能性も高い。米国の調査では、トリクロサン含有製品を使用している人のうち、75%の人の尿からトリクロサンが検出され、授乳中の女性の母乳の97%から検出されたというデータもある。

 さらに、トリクロサンやトリクロカルバンは河川などの水質調査でも検出されることが多い。下水から河川・海へ危険な化学物質を排出していることになり、生態系への影響も無視できない。

 トリクロサンを含む製品は、すでに昨年からヨーロッパでは販売中止となっている。米国の動きを受けて、日本政府も対応に乗り出した。菅義偉官房長官は7日の記者会見で「日本においても同様の成分を含む商品の確認を早急に実施し、とるべき措置について検討を行っていく」と述べた。

 メーカーでもトリクロサンの使用中止に乗り出す動きが加速している。トリクロサンやトリクロカルバンを使用していた製品でも、イソプロピルメチルフェノールなど別の殺菌成分に切り替える商品が出始めた。

 だが、そもそも抗菌石鹸を使用する必要があるのだろうか。複数の外科医師に話を聞いてみたが、手術をする前でも普通の石鹸で手を洗い、水でよく流し、アルコールスプレーで消毒する程度だという。もちろん、その上で手術用手袋はするが、抗菌石鹸を使うという声はなかった。手洗いに限らず、普通の生活を送る上で殺菌・抗菌という言葉に過敏になっているのではないだろうか。

村上純一/医療ジャーナリスト

村上純一/医療ジャーナリスト

医療ジャーナリストとしてWEBメディアを中心に執筆中。

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