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江川紹子の「事件ウオッチ」第70回

元慰安婦たちは置き去りのまま…【韓国・少女像設置問題】で問われる日本の外交手腕

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自由民主党HPより

 慰安婦問題をめぐって、日韓関係がまた悪化している。韓国は朴槿恵大統領の職務が停止されて司令塔がいないし、これまで仲介役を果たしていた米国も次期政権の対応は分からない。肝腎の元慰安婦たちが置き去りにされ、両国の人々のナショナルプライドが前面に出て、感情的な対立が長期にわたってこじれる懸念もある。

慰安婦問題をめぐる韓国メディアへの疑問

 一昨年末に日韓合意にこぎ着けたのは、核開発を進める北朝鮮の脅威に対して、日米韓の連携を強化するという安全保障上の要請もあり、日韓国交正常化50周年の年末を控え、日韓双方の妥協の産物ではあった。ただ、そこで大切だったのは、元慰安婦の方たちが存命中に和解に至ることだった。彼女たちの心の傷が癒やされ、少しでも豊かで幸せな晩年を過ごしてもらおうというのが、合意に向けての大義であったはずだ。

 そのために、韓国で「和解・癒やし財団」が立ち上げられ、当事者の意向を尋ね、日本からの10億円を元に、元慰安婦や遺族に慰労金が渡されることになった。存命の元慰安婦の方々の7割を超える34人が慰労金を受け取ることになったのは、生きているうちに解決したいという当事者の思いと、現地の財団の担当者たちの誠実な対応がもたらした結果だろう。

 ところが、韓国のメディアは、その事実をほとんど報じていない、という。実際、韓国の有力新聞の日本語版サイトをチェックしてみても、そうした記事は掲載されていない。それぞれのメディアに、独自の主張があるのは構わないが、大事な事実を伝えないというのは、ジャーナリズムの役割を放棄しているに等しいのではないか。

 アジア女性基金の償い事業が行われた時も、日本政府からの拠出金で行う事業もあり、総理大臣からのお詫びの手紙も渡されるなどの事実を、韓国メディアはきちんと伝えていなかった、と聞く。「日本政府の責任回避のごまかし」として激しい拒否反応を示すNGOに同調したメディアが発信する情報は、韓国世論に大きな影響を与えただろう。償い金を受け取った女性たちは、「金に目がくらんで心を売った者」として批難されることになった。

 それでも、さまざまな人たちの努力によって、韓国政府が認めた被害者207人の29%に当たる60人が、償い金などを受け取った。ただし、彼女たちが韓国国内で攻撃されるのを防ぐために、その事実はかたく秘匿され、明らかにされたのはつい2年前のことだ。

 国家賠償という形でなければならぬ、という方々の主張は理解できる。けれども、だからといって償いを受け入れるという道を選んだ人を批難するのは筋違いだ。日本軍の慰安婦として被害に遭った女性たちは、今度は祖国の同胞たちからの激しいバッシングで貶められることになったのだ。なんと残酷なことだろう。

 今回も、慰労金を受け取った元慰安婦たちは、肩身の狭い思いをしているのではないか。人間としての尊厳を損なわれた被害者が、再び傷つけられる事態にならないようにと願ってやまない。

 確かに、合意に反発し、あくまで日本の国家賠償を求める元慰安婦もいる。ただ、釜山の日本領事館の前に新たな少女像を設置して気勢を上げている人たちは、自分たちの行為によって、現実が彼女たちの願う方向に動いていくと、本気で思っているのだろうか。その真の目的が、本当に元慰安婦たちの救済なのか、疑問に感じる。むしろ、自分たちの運動を永続させるのが目的化しているのではないか。

反日運動を勢いづかせた安倍晋三政権

 だから、釜山の少女像に日本政府が反発し、在ソウル大使や在釜山領事を一時帰国させたり、緊急時に通過を融通しあう通貨スワップ協定の再開に向けた協議の中断、日韓ハイレベル経済協議の延期などの報復措置をとったことは、彼ら彼女らにとっては、願ったりかなったりの展開だろう。なぜなら、韓国国民が反発し、反日意識が強まれば、それはすなわち自分たちへの追い風になるからだ。今の展開に、ちょっとした勝利感すら覚えているのではないか。