2016年9月に「Apple Watch」(アップルウォッチ)のシリーズ2が発売されてから、およそ4カ月。圧倒的なブランド力を持つアップルが投入したスマートウォッチの新モデルにもかかわらず、販売数は低迷し、今や話題に上ることすら少ない。
昨年10月にIT専門調査会社のIDCが公開したデータによると、アップルウォッチの16年度第3四半期の出荷台数は前年比71%減の110万台になったという。一方、昨年11月には市場調査会社Canalysが同時期のアップルウォッチの出荷台数を280万台と発表するなど、正反対の調査もある。しかし、いずれにせよ、シリーズ2の販売は意外に盛り上がっていない感が否めない。
1年半あまり前に初代モデルが登場した際は、それなりに注目を集めたアップルウォッチだったが、なぜこんな苦境に陥っているのか。
初代の反省点を生かした「2」、実は好評?
「確かに、初代モデルは反応が鈍く頻繁にフリーズするなど、評判も最悪でした。しかし、シリーズ2はその初代モデルの反省点を生かし、動作も機能性も格段にアップしています」
そう話すのは、アップル製品やウェアラブル端末などに詳しいガジェットライターの熊山准氏だ。売れ行きとは対照的に、ガジェット好きの人たちから見ればシリーズ2の機能面は悪くなく、むしろ評判のいい端末だという。
「初代モデルは、価格200万円前後の18金モデルを設定するなど、高級志向の端末としてブランディングしている印象がありました。その点、シリーズ2ではナイキとコラボしたカジュアルモデルを用意し、誰でも気軽に身につけられるイメージを打ち出しています。
耐水性能や内蔵GPSの導入によって、iPhoneがなくても水泳やランニングなどの運動をワークアウトアプリに記録できたり、目標達成のためのコーチングをしてくれたりと、機能性も向上しています。日常的にワークアウトを行う人にとっては、非常に使い勝手のいい端末になったと思います」(熊山氏)
さらに、熊山氏が評価するのは、ウェアラブル端末ならではといえるアップルウォッチの小ささだという。新モデルが出るたびに大型化する傾向のあるiPhoneは、もはやランニングの際にポケットに入れたり腕につけたりできる端末ではなくなった。しかし、アップルウォッチなら腕につけても邪魔にならず、走るルートやペースも記録することができ、心拍数もわかる。もちろん、音楽を聴くことも可能だ。
「特に、シリーズ2はFeliCa(フェリカ)にも対応するので、軽く腕をかざすだけで改札を通れるのは移動の多いビジネスパーソンにとっては利便性があります。オートチャージで手間もはぶけますし、普段のちょっとした買い物にも使えるので、これからはフェリカ目当てでアップルウォッチを購入する人が増えると思いますね」(同)
とはいえ、シリーズ2がさほど注目を集めていないのも事実。なぜ、シリーズ2の人気が低迷しているのだろうか。熊山氏は、その理由を「一般ユーザーが日常的に利用するイメージを抱きにくいことが原因」と語る。
「シリーズ2は初代モデルに比べて使いやすくなったとはいえ、デザイン面を含めて、まだ日常やビジネスシーンでの活用法が見えにくい。それが、一般ユーザーにウケが悪い一番の理由でしょう」(同)
2日で充電切れ、「ただの重いリストバンド」に
そこで今度は、実際にシリーズ2を購入して日常的に使っている一般ユーザーに話を聞いた。
自他ともに認める“アップル信者”で、昨年10月にシリーズ2を購入したというAさん(男性・29歳)は、「確かに、フェリカ対応によってアップルウォッチの用途が広がりました。しかし、問題はバッテリーです」と話す。
「使ってみた感覚では、フル充電し、アプリをほとんど使用せずに時計機能のみで活用したとしても、バッテリーのもちは2日が限界。正直いって、ここまで充電がもたないと思いませんでした。同じアメリカのガーミンからは約1年間の電池寿命を持つウェアラブルも登場しているのに、2日ももたないのでは比較になりません」(Aさん)
実際、アップルの公式サイトにも、シリーズ2を含めてアップルウォッチのバッテリーは「一晩の充電で18時間持続する」とある。これでは、急な泊まりなどで充電できない環境下に置かれて電源が切れると、時計機能すら使えなくなり、アップルウォッチがただの重たいリストバンドになりかねない。
また、頻繁に充電するとしても、就寝中に腕から外して充電した場合、スマートウォッチの醍醐味である睡眠ログを取れなくなってしまう。一般ユーザーからすると、アップルウォッチには、ほかにもいろいろと残念な点が多いという。
「フィットネス用としても、アップルウォッチがほかのウェアラブルにデザインや性能で勝っているとは思えません。僕も実際に使っているのですが、ナイキのフューエルバンドやフィットビットといったウェアラブルのほうがデザイン性や手軽さの点では絶対に使いやすい。最近は安価で高性能なライフログ用の端末がたくさん発売されているので、あえてアップルウォッチを選ぶ必要性がないと思います」(同)
他メーカーも進出、中途半端なアップルウォッチ
そもそも、アップルウォッチの価格帯は3~4万円前後。高価な製品が多いアップルのスマートウォッチであることを考えると比較的お手頃だが、実はその半額以下でフィットネスに特化したウェアラブルデバイスが買える。
逆に、価格はアップルウォッチよりも高いが、活用の範囲を絞り、よりエッジを効かせたスマートウォッチもある。たとえば、ニクソンが16年11月に日本で発売した「THE MISSION(ミッション)」は、アクションスポーツに対応した世界初のスマートウォッチだ。
スノーボードやロッククライミング、サーフィンなど、激しい運動に対応できる防水性と耐久性を備え、アウトドアやスポーツ時の利用に特化した製品となっている。その分、価格は6万円台だが、アップルウォッチよりもはるかにユーザーの活用法が見えやすい。
また、ビジネスシーンなど普段使い用のスマートウォッチも同じだ。「DIESEL(ディーゼル)」などを扱い、約150カ国で時計ブランドを展開するフォッシルグループも、16年にデザイン性を重視したスマートウォッチを立て続けに発売しているほか、女性に人気のブランドからも続々とスマートウォッチが登場している。
こうしたなか、決してコスパがいいわけではなく中途半端な印象が否めないアップルウォッチが一般ユーザーに浸透するのは容易ではない。熊山氏が言うように、「日常やビジネスシーンでの活用法が見えにくい」上にバッテリーが18時間しかもたないという大きな欠点もある。
17年、スマートウォッチはさらに注目を集めると思われるが、はたしてアップルはその波に乗れるのだろうか。
(文=藤野ゆり/清談社)