中国初の国産空母が現在、中国東北部遼寧省の大連港で建造されているが、その空母は「山東」と名付けられることが明らかになった。また、空母「山東」は年内に完成した後、試験航行などを経て、2年後の2019年には広東省湛江を総司令部とする南海艦隊に配属されることが決まっているという。中国共産党機関紙「人民日報」(海外版)のコミュニケーションツールLINEの公式アカウントが明らかにした。
南海艦隊は1949年に設立され、主要任務は東南アジアとの係争地域を含む南シナ海や台湾海峡や日本沖縄県尖閣諸島を含む西南海域の防衛。トランプ米新政権は南シナ海における中国人民解放軍による基地建設や、「台湾は中国の一部」という「一つの中国」を主張する習近平中国最高指導部と対立している。
米国防長官就任後、初の訪問国に韓国と日本を選んだマティス氏は安倍晋三首相との会談で、「尖閣諸島が日米安全保障条五条の適用対象」と明言したほか、稲田朋美防衛相との会談でも「東、南シナ海での中国の一方的な活動がアジア太平洋地域の安全保障上の懸念」であることなどを確認している。
このような日米の協調歩調に対抗するため、習近平指導部は西南海域や南シナ海の係争海域である南沙諸島との距離がそれぞれ約1000キロメートル範囲内にある湛江や海口、三亜などの南シナ海沿岸の海軍基地を「山東」の母港にすることに決めたようだ。
大連で現在、建造中の空母「山東」の写真は共同通信社が昨年12月上旬、加盟社に配信しており、日本の多くの新聞が写真と記事を掲載している。
記事では「中国が遼寧省大連で建造している初の国産空母の船体と艦橋(ブリッジ)がほぼ完成し、船体の作業用足場も大半が取り外されていることが(12月)10日までに共同通信が入手した写真でわかった。船体は塗装の工程に入ったとされ、中国内外の軍事専門家は来年初めにも進水するとの見通しを示している」と伝えている。
その写真を見ると、船体はほぼ完成し塗装段階に入り、艦橋部分は無数の足場に囲まれているものの、その形は鮮明で建造作業が最終局面に差し掛かっていることが一目瞭然だ。
米国のトランプ新政権に対抗
空母「山東」の外観は現在の中国唯一の空母「遼寧」(排水量約6万7000トン)にまったくといってよいほどそっくり。「通常動力の排水量5万トンクラスで、遼寧で得られたノウハウを継承している」(共同電)とみられる。「遼寧」はウクライナから購入した空母「ヴァリヤーグ」を改修して、12年に就役。現在は山東省青島港を総司令部とする北海艦隊に配属され、母港も青島港だ。
中国国防省の発表などによると、「山東」は「遼寧」と同じく高圧蒸気などで艦載機を発進させる装置「カタパルト」は搭載しておらず、船首部分に傾斜のついたスキージャンプ式の甲板で艦載機の離艦を行うとみられる。
「山東」の母港について、前出LINE公式アカウントは「南シナ海沿岸の基地」としており、具体的な基地名を明らかにしていないが、南海艦隊は母港が湛江で、そのほか広州と、海南省(島)の海口および三亜に海軍基地を有しており、このうちの一つが母港となるのは確か。「遼寧」が北海艦隊の総司令部の大連を母港としていることから、「山東」も湛江となる可能性が高いとみられる。
湛江ならば、南シナ海全域と台湾、あるいは沖縄県尖閣諸島が防衛海域からも近いことから、南シナ海防衛や「尖閣諸島を専守防衛地域に含む」と明言している米国のトランプ新政権に対抗する狙いがあるのは明らか。
それだけに、19年の「山東」就役後、「遼寧」との空母2隻体制による空母艦隊と、沖縄駐留米軍や日本の海上自衛隊が激しい戦闘を展開する可能性もあながち非現実的といえなくなりそうだ。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)