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手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

過大な「株主還元」競争、企業の成長を著しく阻害…短期利益重視経営への警鐘

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ローレンス・フィンク氏(ロイター/アフロ)

 2017年1月24日に米ブラックロックのフィンクCEO(最高経営責任者)の手紙が公開されました。彼を知らない方も多いと思いますので、まずはブラックロックの紹介から始めます。

 同社はグローバルに資産運用、リスク・マネジメント、アドバイザリー・サービスを提供し、2016年12月31日現在、運用資産残高はグループ全体で総額5.15兆米ドル(約600兆円)にのぼる世界有数の資産運用会社です。上場企業でもあります。そして、フィンクCEOは、投資家の一般的なイメージと異なるのですが、経営の短期主義に対して警鐘を鳴らしてきたウォール・ストリートの超有名人です。彼は14年から投資先のCEOに対して手紙を書いており、その内容が私のように株式市場と企業経営のインタラクションを研究テーマとする人間には非常に示唆に富んだものとなっています。

 そこで今回の連載では、フィンクCEOの17年の手紙の3つのポイントを紹介していくことにします。3つのポイントとは、株主還元政策、ESG(環境、社会、ガバナンス)、そして経営戦略となります。それぞれを見ていくことにしますが、その前にフィンクCEOがなぜ長期的な視点での投資やエンゲージメントを実践しているのかを確認しましょう。

長期的視点の根拠:年金の運用を短期的な視点で行うことには意味がない


『株主に文句を言わせない!バフェットに学ぶ価値創造経営』(手島直樹/日本経済新聞出版社)
 なぜフィンクCEOは、経営の短期主義の原因とも考えられている(私はそうは考えませんが)投資家でありながら、長期的な視点での投資やエンゲージメントの必要性を訴えるのか。

 まずは投資に関してですが、同社の顧客の大多数が退職に備えた資産形成や子供の教育費などの長期的なゴールのために投資をする長期投資家であるためです。ですから、目先のリターンが増えたところで意味がなく、長期的な視点で投資をするのは当然のことなのです。

 次にエンゲージメントに関してですが、顧客の株式保有の多くが、インデックス連動型投資となっているため、インデックスに採用されている限り、ある企業の業績が悪化しようとその株式を売却できません。そこで、企業のパフォーマンスに満足できないケースでは、積極的にエンゲージメントを実践し、企業価値創造のサポートをすることになります。

 投資の目的が、目先の「お小遣い稼ぎ」でないのであれば、投資家はフィンクCEOのような行動を取るほうが長期的にメリットは大きいはずです。「投資の神様」であるバフェットと比較すると、長期的な投資という点では同じですが、バフェットはエンゲージメントをしない、より正確に言えばエンゲージメントを必要とする企業に投資をしない点ではフィンクCEOと大きく異なるといえます。